カーテンを開けたら、綺麗な青空が広がっていた。そんな時に思い浮かぶのは、
何故かあいつの顔で‥。




HAPPY DAYS




「おっはよー手塚。珍しいじゃん、手塚からのお誘いなんて。雪どころか槍振りそう」
などと言いつつのんきに笑っているのは、菊丸英二。俺と同じ青学の3年でテニス部。
俺の恋人だったりする。
「別に‥。最近部活続きで忙しかったし、たまにはな‥」


 自分が常ならぬ行動を取っているという自覚はある。
休みの日に誘ってくるのは、いつも菊丸で、俺から誘うことはほとんどない。
こんな風に喜んでもらえるなら、もっと積極的に誘って置けばよかったと、後悔と反省。
「うぁー手塚照れてるし。顔が赤いよー」
「うるさい。分かっている。いちいち指図するな」
そう言って思わず顔をしかめた俺を、菊丸が指をさして笑う。
 菊丸のテンションが高いのはいつものことだし、
皆から無表情だの鉄面皮だのと言われる(アレだけ指摘されれば、自覚もある)
俺の表情があからさまに変わるということが珍しいのは分かるが、
お前それは笑いすぎだろう。


「で、どこいくの?手塚待ち合わせだけ指定して電話切るしさー」
菊丸が当然と言えば、当然の質問をしてくる。
今回誘ったのは俺からだ。俺のほうに、何らかのプランがあってのことだろうと考えるのは
自然なことだろう。
しかし、困ったなどう答えるべきか‥。
「意外とせっかちだよな、手塚。まぁ、こーんなにいい天気だし、
俺も手塚誘おうと思ってたんだけどさ。珍しく先越されちった」
俺が押し黙っているからなのか、元々の性格なのか(まぁ、半々だろうが)
菊丸が俺が話す暇を与えることなく、話を畳み掛けてくる。


俺は菊丸へと話を切り出すタイミングをうかがいながら、
菊丸より先に誘いを掛けることが出来たことに喜びを覚えていた。
菊丸が俺を誘おうと思ってくれていたことにも喜びを感じるが、それ以上に「珍しく先越された」と言ったときの菊丸の顔が、
俺の一番好きな笑顔だったからだ。


不二に言わせるとこの手の物事に対する俺の行動は、一般的な人間の平均値よりも遥かに鈍いらしい。
(あいつが、誰をモデルとして平均値とやらを算出したのか問いただしてやりたいところだが)
ただ、こんなことで菊丸が喜んでくれるならばもっと早くに行動していれば良かった、とは思う。
認めるのはかなり癪だが、不二の俺に対する鈍いという評価も一理あるといえるだろう。
「でさー手塚、今日はどこ行くわけ?テニスコート?スポーツショップ?
あ、参考書とかスポーツ雑誌買いに本屋とか?」
俺が菊丸を誘おうと思っていると考えられる場所を、菊丸が次々と挙げていく。


楽しそうな様子に水を差すのは忍びないが、事実なのでしょうがない。
正直に、話すことにする。
「考えてない」
「はぁ、なんだそりゃ!!!?」
俺の返答に菊丸が全身で不満を露にする。相変わらずリアクションの大きいやつだ。
「歩きながら考えればいいだろう。行くぞ」
そう言って、菊丸の返答も聞かず菊丸の手をとって歩き出す。
「何それ!?何でなんも考えてないくせにそんな偉そうなんだよ。俺にはいつも良く考えて行動しろとか、説教するくせに!!
たまには、手塚がかっこよくエスコートしてくれるのかと思ったらさー」
不満を喚きながらも、菊丸が手を握り返してきた。正直手を振り払われなかったことに安心する。
自分でも、やっていることが行き当たりばったり過ぎると感じているのだ。菊丸が同じように感じて、拗ねてもしょうがないと思っていた。


 
 握り返された手を更に強く握り返す。
 

 幸せだと思った。


 本日晴天。隣には愛する人。目的地特になし。
だからこのまま歩いていこう。
この幸せをいつまでも感じていたいから。
BACK