段々と小さくなる背中を見つけながら、ため息を一つ。

何時から気になってたか何て覚えていない。
気がついたら、あのまっすぐな背中が気になってしょうがなかった。
あの力強い瞳に映りたくてしょうがなかった。
「なかなかうまくいかへんな」
忍足はそう呟くと、学校までの道のりをゆっくり歩み始めた。





未来へ〜side忍足〜





好意ではないにしろ、まだ、ああやって自分を意識してくれている内は、
日吉の中に自分の居場所があるという望みを持っていいのではないかと、忍足は祈る様な気持ちで思う。





忍足にとって一番怖いのは無関心だからだ。





それは忍足が日吉の世界から完全に閉め出されてしまうことを意味する。
忍足はそれが怖かった。



「まぁ、嫌われたままっちゅうのも切ないけど」
自分のふざけた言動が日吉に疎まれる原因になっていることは忍足も重々承知している。



しかし忍足自身も、まさか、ここまで冗談めかさないと日吉話すことも出来ないとは予想外だった。
何に対してもそれなりに器用にこなすのは、忍足の密かな自信でありコンプレックスでもあっが、
それをいっそ気持ちがいいほどに破壊をしたのが日吉だ。

自分でも女々しいとイヤになるほどに緊張する。
その緊張を押し隠して日吉に話しかけると、どうしても普通に話せなくなる。
冗談でコーティングしないと話せなくなる。

本気で話して拒絶されるのが怖いからだ。
本気で話した時男同士だからではなく、人として拒絶されるのが怖い。

そんなままならない自分がイヤでしょうがないが
心の別な場所でそんな風に思い悩む自分を前以上に好きになれている気がする。

「うぉーい忍足ー」あの大きな声は宍戸だ。
後ろを振り返ると宍戸が忍足へ向かって走ってきていた。
「おはようさん」
自分の下へ追いついた宍戸に忍足は、思考をストップして何時も通りの挨拶を返す。


そのままくだらないことを話しながら、忍足と宍戸は連れだって歩く。
そろそろ学校だ、ということで宍戸が唐突に訊ねる。
「そういや、忍足。何かいいことあったのか?」
何時も以上にテンション高そう
な顔してるな。何時うざいくらい高いけど。

「宍戸ー今何気にえらい失礼なこと言ったやろ?」
「あ?本当の事じゃねーか」
「ほー人の事貶しといて、反省もせんような悪い子にはお仕置きせんといかんなぁ」
宍戸に何気に失礼なことを言われた報復にプロレス技を掛けながら
忍足はにやけてくる自分の頬を抑えられなかった。
日吉とあの程度の会話を交わしたくらいで、
宍戸にも分かってしまうくらいテンションをあげてしまう現金な自分に対して。
そして、そんな現金な自分は片思いとは言え幸せな恋をしているのではないかと思ったからだ。






ぐだくだ悩んでいたのが馬鹿らしくなってきた。





きちんと考えなければならないことはたくさんあるだろうが今はこの温かな感覚に浸っていたい。

なんだかんだで、自分は日吉がそこにいれば幸せなのだから。

「痛てぇって、離せよ忍足」
「聞こえませーん。朝から人に向かって失礼なことを言った報いや」
「聞こえてんじゃねーか!!」

そんな風にして忍足と宍戸がふざけあっていると
騒ぎを聞きつけた跡部辺りに命じられたのか、日吉がもの凄く不機嫌そうな顔で歩いてきた。

そんな日吉の姿を目に収めますます忍足は笑みを深くする。
そして確信した。ぐだくだ悩みながらもこんな風に笑える自分は確実に幸せなんだと。



日吉はもうユニフォーム姿だ。今日の練習試合が楽しみで眠れなかったと言ったら日吉はどんな顔をするだろう。






今日も日吉とテニスが出来る喜びを噛みしめながら忍足は宍戸とふざけあいつつ校門をくぐる。







それは楽しい一日への第一歩。

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