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ある日の午後鳳が昼食の最中いきなり言った。 「日吉はさ、忍足さんのことが本当に好きなんだねぇ」 考えるまもなく瞬間的に殴っていた。 confused ideas. 「…っ、日吉いきなりなにするんだよ!!おかず落としたじゃないか!!」 「お前がアホなこと言ってるからだろうが」 いきなりおかしなことを言い出した報いだ。 本当に、何なんだいきなり。 コイツの唐突な話題転換には慣れていたつもりだったが俺もまだまだ修行が足りないということだろう。 「思ったことを素直に言っただけじゃないか」 「どこをどうみたらそうなるのか是非説明してほしいんだがな」 鳳が涙声で反論してきた。鳳はいつもこうだ。天然かわざとかは知らないが、 突然訳の分からないことを言い出しては周囲を混乱に陥れる。 そんなものには宍戸さんだけ巻き込んでいればいいものを 「どこって…見たまんまじゃないか。 日吉の話題でテニスとか学校関係とかの次に多いの忍足さんの話なんだよ?」 もしかして気づいてなかった? そうつづけて、新しいおもちゃを発見した子供のように鳳は笑った。 「それは、あの人がむやみやたらと意味の分からない接触を図ろうとするからだろう」 ただ、回数が多いそれだけのことだ。 「だからぁ、いくら回数が多かろうと、尋常じゃないほど行動の一つ一つ覚えてるじゃん日吉」 「俺が尋常じゃないほど覚えているのではなく、 忍足さんが俺が覚えざるを得ないほど尋常じゃない行動をしているとは思わないのか」 「だって日吉興味ないことは基本的に切り捨てるだろ」 「俺は、忍足さんになんか興味ない」 自分に言い聞かせるように、殊更ゆっくりと言葉を紡ぐ。 俺が忍足さんのことにテニス以外で興味を持つなんてあり得ない。 なんとなく気まずい沈黙の後鳳は殊更にこやかな笑みを浮かべてこう言った。 「日吉の嘘つき」 相も変わらず、人の神経を逆なですることが天才的にうまい。 あぁ全てに無性にイライラする。 何故か言葉に詰まっている俺にも、そんな事を言い出した鳳にも そもそもの原因を作り出したあの人にも。 「駄目だよ。そんな唇かみしめちゃ。唇きれちゃうよ」 鳳の言葉に我に返るとともに、唇に痛みを感じる。 無意識に噛みしめていたらしいことを、今更ながら自覚した。 「お前の…」 「残念時間切れ」 鳳の言葉に被さるように廊下から忍足さんの声が聞こえてきた。 「ほら、日吉。忍足さんが用事あるみたいだよ。わざわざ日吉に会いたいがため にメッセンジャーかって出たのかな?」「最後のが余計だ。いってくる」 楽しそうに手を振る鳳を横目に廊下へ向かうと、 人の気も知らずのんきに笑っている忍足さんがいた。 「あー…日吉。ちょうどええとこに出てきてくれたわ。やっぱり俺と日吉は心と 心でつながってんねんな」 「あれだけ騒ぎ声がしたら分かりますよ。それより何の用ですか?昼休みももう 終わるので早くしてください」 「日吉のいけず。愛し合う者同士がつかの間の再会を果たしたんやで。 ちっとは愛を語り合おうかなとか…」 「殴りますよ」 「日吉くん、いつもより切れるのが早くないデスカ?」 「気のせいです。俺はいつでも冷静です」 嘘だ。あんな問答をした後に冷静でいられるわけがない。 八つ当たりだとは分かっているが、 いつも以上に対応が、おざなりになってしまう。 「日吉が冷たい…」 「日頃の行いが悪いからじゃないですか」 「またそんな他人事みたいに…」 それでもこの余りにも、いつも通りな展開に力が抜けていく。 今何となくホッとしているのは、忍足さんとの不快極まりないやりとりが、原因だなんて絶対に認めたくないけれど。 そんなことになれば、さっき否定したばかりの鳳の言葉を認めることになる。 それは絶対にごめんだ。 鳳がどう思おうと関係ない。 俺は、忍足さんのことなんてなんとも思っていない。 忍足さんは俺にとって先輩以上でも以下でもない。 今はまだそれでいい。 俺のこの俺ですらどう表現していいか分からない気持ちを 鳳なんかに分かった振りをされてたまるか。 結局、忍足さんの用事は部活が榊監督の都合で休みなので二年生連中に伝言しておけと言うことだった。 それならそれで早く言えばいいものの、忍足さんが無駄に装飾語でコーティングされた言葉を駆使しつつ 無駄に有り余っているらしい、体力と精神力を使って俺に絡んできたために 昼休みは鳳のくだらない話と忍足さん理解しがたい態度に付き合っている内にあっけなく終わってしまった。 「やっぱりなー日吉忍足さんと一緒の時、ちょっと笑ってるんだよね」 だから鳳がそんな俺たちの様子を見ながら こんなことをつぶやいていたことを、 俺が知らないのは、言うまでもない。 |
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