|
||||||
andante | ||||||
「手塚、おなか空いた」 「確かに小腹が空いてくる時間だな」 あまりの暑さのせいか、全く人どうりが感じられない通り。 というか俺は今日は手塚家にお泊りなので、 通常なら、俺も手塚家でボーっとしているのだが 珍しい事に、俺は手塚と二人で、お使いの途中だ。 手塚の家のおばさんに頼まれて夕飯の材料を買いに行く帰りである。 というよりは、無理やり用事をふんだくったのだが‥‥。 いつもいつもお世話になってるし、 やれるところは労力で返していかないとね。 とはいえ、テニス部で鍛えた俺にも流石にこの暑さはきつい。 「おばさん、途中で休憩してもいいって言ってたし 帰る前にどっかで涼んでいこうぜー」 「そうだな。流石にこのまま炎天下を歩くのは厳しいかもしれない」 「やたー、何食べよっかなー」 「程ほどにして置けよ。夕飯が入らなくなっても知らないからな」 「何を言う手塚君。ブラックホールといわれる菊丸様の胃袋の凄さを知らないな」 「馬鹿を言え。とっくに知っているがそれでも食べすぎは体に毒だ」 「わーかってるって」 ゆっくりゆっくり歩きながら何を食べようかと相談する。 このテンポが気持ちいい。 いつもは、仲間がいてものすごいスピードで時間が通り過ぎていく。 勿論それも楽しいけれど 手塚と二人で紡ぎ出す、このゆったりと時間はまた格別だ。 「それにしてもこんな休みも久しぶりだな」 「ずーっと部活だったかんね。一日テニスしてないと変な感じする」 「今日は我慢しろ」 「休みも練習のうちでしょ。昨日ばぁさんに言われて耳タコだよ」 「分かっているならいい。 たまにはテニス以外のことに触れるのもいいと思うぞ」 「それ手塚にだけは言われたくないんですけど‥」 「まぁ――お互いにという事だ」 二人で笑いながら、帰る。 こんな何気ない時間が大事だと気付いたのはいつからだったっけ。 「それにしても、こう人っ子一人いないと不気味だな」 「一応まだお子様が遊んでてもいい時間なんだけどね。 大通りのほう出たら凄いんじゃない」 「かもしれないな。俺は二人でゆっくり出来てこちらの方が有り難いが」 前言撤回。二人の時間は好きだけど、 こういうどう返していいか分からない事をサラッと言われるから 対処に困る。 この天然たらし野郎が。 「手塚って時々本当に中3なのか疑いたくなるくらい 恥ずかしい事を言うよね」 しかも全部素だからたちが悪い。 自分がドンだけ恥ずかしい事を言ったかとか自覚してないんだろうなぁ。 「それはお互い様だろう。菊丸のほうがたちが悪いと思うぞ」 ちょっとむっとしたように手塚が反論してくる。 絶対手塚のほうがたちが悪いと思うんだけどな。 好きだのなんだの日常会話に混ぜて言ってくるし。 「絶対手塚だよ!!俺手塚みたいにあっさり好きだとかいえないもん」 「嘘をつくな!!回数だけで言えばお前のほうが絶対多いし 第一あっさり好きだなどと言った覚えもない」 「えー何それ絶対手塚のほうが多いよ!!俺はスキンシップが多いだけです」 あれ?何か予期せぬ方向に言ってない? 喧嘩とかは無しだよ。今日は手塚ん家に久しぶりにお泊りなんだから。 そういうのは無し‥‥って思うんだけど口が止まらない。 あぁ――俺の馬鹿!! 「そういうことを堂々と言ってしまえるところが恥ずかしいんだ、既に」 「じゃあなんでそんな恥ずかしいのと付き合ってんのさ!!」 「そんなもの好きだからに決まって‥」 「ほらやっぱりあっさり好きだとか言ってんじゃん」 「いや‥‥その‥‥」 手塚の言葉にお互い時が止まったように黙り込む。 恥ずかしくていたたまれない空気が二人の間を流れて どうしていいか分からない。 「まぁ、アレだね。今回はお互い様ということで」 「そうだな」 そう宣言した後もこの空気は変わらなくて、 何となく二人で黙ったままゆっくり歩く。 それがイヤじゃないから困るんだけど。 どうこう言っても、手塚が好きなんだなぁとか 手塚に愛されちゃってるんだなぁと実感して 心がじんわり温かくなる。 そんな二人の帰り道、手塚が突然口を開いた。 「なぁ‥‥あそこにいるのは氷帝の忍足と日吉じゃないか?」 「あ!!立海の真田と仁王もいる」 手塚が指を指す方向を見ると、 通りすがりのカフェに珍しい組み合わせを発見。 皆楽しそうで、こちらもなんだかウキウキしてくるそんな光景だ。 「ちょどいいからあそこで休憩していくか」 「そうだね。何にしようかなー」 お互いに頷きあって、ゆっくり歩いて目的地に近づいていく。 全員の驚く様を思い浮かべて、二人でこっそり笑いあった。 |
||||||
BACK |