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神聖なる学び舎 「今日も弦一郎はかっこええのぅ」 「仁王お前いっぺん眼科行った方がいいじゃねぇ」 こちらは、立海大付属高等学校内女子テニス部コート。 隣に隣接する男子部のコートを見やりながらため息をつく恋する乙女が1人。 名を仁王雅と申します。 「どーゆー意味じゃい、文」 「どーもこーもそーゆー意味だろぃ。 真田見てかっこいいなんざ俺には理解できねぇ領域だ」 そんな恋する乙女に突っ込みを入れる果敢な少女は、名前を丸井文、雅と同じくテニス部所属である。 「せんぱーいどうかしたんすか。もう部活終わったっスよ」 帰る用意しないんですか?と言葉を続けながら二人の許に走ってくるのは、とっくに帰り支度を済ませた切原赤也。 文、雅の後輩である。 「赤也お前なら分かってくれるよな」 雅は丁度いいといわんばかりにこちらへ駆け寄ってきた 赤也を味方に引き入れるべく説得を始めた。 「何をっすか!?仁王先輩、揺らさないで下さいよ」 「いいから大人しく「うん」ていいんしゃい」 「マジ握りやめてくださ‥‥ちょ、丸井先輩助けて!! 爆笑してる場合じゃないッス肩壊れる壊れる!!」 力に物を言わせるという強引な方法ではあったが。 ちなみに雅は力いっぱい肩を握られて揺すられている赤也が返事をするどころではないことには全く気がついていない。 「仁王‥‥赤也死ぬぞ‥‥」 最初こそ爆笑していたものの流石に後輩が死んではまずいと思ったのか恐る恐る文は雅に声を掛けた。 全力で止めに入るには、雅が怖すぎたと後に文は語っている。 「すまんすまん赤也。弦一郎のことじゃったからつい興奮してもうて」 「つい、でアンタは人殺すんですか!!」 「うんそんな事より、赤也、弦一郎をどう思う?」 「ついって何スか!?アンタ反省とかないんですか!!」 余程痛かったの赤也が涙目で抗議をする。 本気で肩が壊れる勢いだったのだ。 多少大げさかもしれないが、この程度は文句を言わないと赤也も気が済まないのだろう。 「日々後悔せんのが俺の魅力じゃ。弦一郎もそう言っとったし」 そんな赤也の様子を全く気にすることなく雅は話を続ける。 そのときの様子を思い浮かべたのだろう。 雅の頬はうっすらと赤く染まっていた。 確かに花も恥らう乙女といった風情でたいそう魅力的だが 語っている内容には突っ込みどころ満載である。 「堂々ということかーーーー!!」 「いやそれ真田呆れて言ったんだと思うぜぃ‥」 赤也が喚く横で、文がこっそりと突っ込みを入れる。 文の言っている事は確かにどう考えても否考えなくても想像の付く話だが それでも、雅の心に火を点すには充分だった。 文の発言を聞きとがめた雅が、ピクリと固まる。 そうかと思うと雅の周囲を某魔王の様な空気が、渦巻き始めた。 「文に弦一郎の何が分かるんじゃ。 弦一郎を昔からよう知っとんのは俺 それとも何、文もしや俺の弦一郎に‥」 呪詛でも行っていそうな雰囲気を醸し出しながら文に迫る雅。 なまじか顔がいいだけに迫力も満点である。 やばい‥‥マジ切れ寸前だ!! 雅とは長い付き合いなのだ。 流石に、顔を見ればある程度何を考えているか予想はつく。 「わわわ悪ぃ。そうだよな、仁王がそういうんだから間違いねぇよな。 仁王のいいところは日々後悔しない生き方をしてるところだよな」 「そっ‥‥そうっすよ。 この世に仁王先輩ほど真田先生のことが分かる奴いませんからね」 二人そう確信すると迫り来る闇に怯えながら、懸命に雅の説得にかかる。 普段は感情の起伏がほぼないといって差し支えない変わりに マジ切れすると本気で恐ろしいのだ。 いっそ殺してくれと叫びたくなるほどに。 前に迂闊にもマジ切れ(二人で遊んでたら真田にテニスボールをぶつけたため) させてしまった過去のある文も赤也もその時のことを思い浮かべると 今でも体が震えて涙が出てくるらしい。 もうあんな思いはごめんだと命のまだ惜しい年頃な二人は 懸命に説得に掛かる。 真田にふさわしいのは雅しかいないだの、 真田をこの世で一番幸せの出来るのは雅しかいないだのと言い募り 説得を続けること20分。 納得したらしい雅は 「やっぱそうじゃよね」 と極上の笑みを残し、真田と帰る準備をするため部室へと去っていった。 「誰ですかね。クールでミステリアスなところが素敵とか言ってたアホは」 「まぁ‥‥真田限定だからな‥‥」 「いつもけだる気で、他の人間なんか興味なさそうって言われてましたけど‥」 「実際、真田以外にはたいして興味ないからな」 「あんな分りやすい人珍しいですけどね」 「真田関連についてのみだけどな」 一方グラウンドに残った二人は、そんな雅の背中をぼんやりと眺めながら 全てに疲れきったような顔をして佇む。 もしかしたら、1人の人間をあそこまで変えてしまう 真田って凄いのかもなと感心しながら。 神聖なる学び舎では今日も今日とて恋の花が咲き乱れておりました。 |
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