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ウエディング‐ドレス【wedding dress】 洋式の花嫁衣装。ふつう純白の布地で作る。 花嫁の幸せの象徴といっても過言ではない真っ白で綺麗なドレスは、 世界中の恋する乙女の憧れの象徴だと言ってもいいのではないだろうか。 ただ、まだ学生である自分には全く関係のない話ではあるが。 これくらいならできるだろ 「それでなんで、このメンバーなんですか?」 少々イライラしながら日吉は尋ねた。 手塚さんとの結婚を控えた菊丸さんが、ウェディングドレスを選ぶためにドレスショップへ行くことになった。 それは、理解しよう。 本来ならば手塚さんと一緒に来る予定だったのが、急な仕事で菊丸さん1人で赴かねばならなくなった。 ふたりがこの日をどれだけ楽しみにしていたかは、知っているので大人って大変だな、と同情はする。 やはり客観的な意見をくれる人間がいないのは不安なので、誰かに付いて来て貰いたい。 1人信頼できるアドバイザーがいれば心強いだろうしな。自分が同じ立場でもそう考えるだろう。 理解が出来ないのは、ただ一点。 何故、同行するメンバーが自分と仁王さんと忍足さんなのか。 「日吉。もうここまで来て文句言うのやめんしゃい」 「せやで、日吉。祝い事の準備しに行くんやから、眉間に皺は厳禁やろ」 「まぁまぁ、いいじゃん。お礼に後でご飯奢ったげるから」 3人が3人とも笑顔なのもムカつく‥‥特に忍足さんがニヤニヤしてるのが癪に触る。 「でも、仁王さんは分かりますけど本当にどうして、私と忍足さんが一緒なんですか?」 道場で朝稽古を済ませて、食卓に向かうと何故か伊達眼鏡‥‥失礼、忍足さんが母を口説きながら朝ごはんを食べていた。 ―――――それだけでも、絶句モノだというのに 「若さん、いいわねぇ。恋人がこんなに素敵な先輩で」 とすっかり忍足さんの見た目と口の上手さに騙された母の目がいつも以上に輝いていたのが不気味だった―――――― 何しているのかを問い詰めてやりたいのは、山々だったのだが 予想外の自体に(というか忍足さんのバカさ加減)力が抜けたのと、 どこが良かったのか、忍足さんのことをすっかり気に入った母に 「忍足君、若さんを誘いに来てくださったんですって。早く支度なさい」 とせっつかれ、あれよあれよという間にこの状況だ。 今日菊丸さんのウェディングドレスを見に付き合うこともさっき聞かされたばかりである。 菊丸さんと仁王さんは仲が良いらしいが、私自身はそんなに付き合いがあるわけでもないし 忍足さんも仁王さんとは仲がいいが菊丸さんとは初対面のはずだ。 「イヤ、菊丸さんのドレス選びに付き合う言うたら日吉のウェディングドレス姿の妄‥‥色々語りだして最終的に号泣しだしてな。 そんなに、言うならお前も一緒にどうじゃーって誘ったんよ、俺が」 妄想だけであそこまでいけるとは流石じゃのーと仁王さんが言えば いやー仁王さんの真田に対する愛には負けますわーと忍足さんが返す。 その日どんなやり取りがあったのかは、知らないし知りたくも無いが(禄でも無いに決まっているので) 大方忍足さんの相手をするのが面倒になった仁王さんが、話を切り上げるために私を巻き込んだのだろう。 菊丸さんも、人は多い方が楽しいからねーとのん気に笑っていて、あの二人の漫才を止める気は全くなさそうだ。 誰だったっけ‥‥この二人をクールビューティーなんて言っていた馬鹿は。 そんな頭の痛くなる馬鹿なやり取りを聞きつつ歩いていると、華やかなウェディングドレスが目に入ってきた。 「ほーら、3人とも着いたよー。今日はよろしくね」 そう言いながら、菊丸さんはさっさと中に入っていく。 この店でウェディングドレスを選ぶのか――――。ディスプレイされているものは、どちらかといえば甘めな感じのドレスだ。 こんな感じのドレスなら菊丸さんに良く似合うだろうな。 そんな事をつらつらと考えつつ菊丸さんの後を追って中に入ると、 既に菊丸さんがスタッフと何かを話していたので邪魔にならないよう側に行く。 「‥‥‥そうですね。折角の機会ですし」 「では、こちらのタイプのドレスも何着か選んでみましょうか」 「よろしくお願いします」 カタログを見ながら、試着するものを選んでいるようだ。 菊丸さんの笑顔には幸せとホンノ少し誇らしげな様子が見て取れてとても微笑ましい。 「日吉、暇なら色々見てきたら?滅多にこないだろうし」 横からカタログを覗き込んでいると興味があるのなら菊丸さんが笑顔で勧めてくれた。 「いえ、ここに居させて下さい」 隣でボッとしている、私に気をつかって下さるのは分かるが、今ココを離れればあの二人の餌食にされてしまうのは間違いないだろう。 絶対にそうなる事が、予想出来るので有り難いとは思うが間髪入れずに拒否をさせて頂く。 特に、伊達眼鏡の方はいい様に着せ替え人形にしてくるに違いない。 自惚れでは無く、今までの経験から間違いなくそう言ってくるのは分かっている。 だいたい、どうして、付き添いのはずのあの二人が、主役を放って我が物顔ではしゃいでいるのだろうか? 「あーまー忍足辺りにとっ捕まったら面倒くさそうだしね」 そんな考えが顔に出ていたのか、菊丸さんが苦笑しながら頭をぽんぽんと撫でる。 他の人間にやられたら、子ども扱いしているのかと不快になるであろうこの行為に 心地よさを覚えるのはこの人の人格によるものだろう。 「あー!!ちょ、何してるんですか、菊丸さん。俺の日吉に」 「えーやろ、あん位。あんまり心が狭いと窮屈言われて日吉に振られるぜよ」 「せやったら、真田さんが手塚さんに同じ事やられても自分大人しく見守れるんやな」 「それはそれ、これはこれじゃ」 「アホ言うな!!同じやろ」 ――――――――それに比べてこの二人は。 ギャアギャアと、さっきまでの穏やかな雰囲気をぶち壊しながら戻ってくる二人、主に自分の恋人の方を見てため息一つ。 何でこの人の事が好きなのかは、死ぬまでというか死んでも解けない永遠の謎だと思う。 そんな疑問もため息一つで流せるようになってしまった自分は、それでもこの人が好きなんだろう。 「菊丸さん今から試着ですか?」 「うん、着替え終わったら感想よろしくね」 笑顔で去っていく後姿を眺めつつ、お祝いはどうしようかなと思う。 「仁王さんは真田さんとお祝い選びに行ったんですか?」 「そうぜよ。二人からっちゅうことで」 何かは、秘密だけどとそう言って笑う彼女は、その時のことを反芻しているのだろう。 仁王さんは良くも悪くも世界の中心が真田さんの人だから。 真田さんと一緒にというだけで、幸せに違いないのだ。 「日吉―俺らも一緒になんか選びに行こうか」 「忍足さんとですか?」 「何そのイヤそうな顔!?」 「忍足、振られたのぅ」 「嘘やー。日吉はそんな子や無いもん」 あぁ、また頭痛くなってきた。ついでに他の人たちの視線も痛い。 まずは、後ろから抱き付いてきている忍足さんを引っぺがして返事はそれからにしよう。 とり合えず、その日はお昼ご飯でも驕って貰おうかな。 さて、真っ白なウェディングドレスを着た花嫁さんが戻ってくるまでに、話をつけようか。 |
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