きらきら星








真田の家の近辺には、余計なビルも光も一つも無くふと上を見上げると、澄んだ空にきらきら綺麗なお星様が瞬いていた。
俺の家からは、比較的中心部に近い新興住宅街にあるのでマンションやら繁華街の明かりやらでこんな綺麗な空を眺めることは難しい。
もっと側で眺めたら綺麗だろうなと、ちょっとした好奇心が湧き上がってきた俺は、
部屋の主が風呂でいないのをいいことに、小さな声で誰に言うでも無く、お邪魔しますと声を掛け無断でベランダに出る。



「流石に、ちと寒いかな」




そんな風にぼやきながらも、星の光と夜の澄んだ空気が体を包むようなこの感覚は、思っていた以上に柔らかくて心地よく
真田にぎゅっとして貰う時は、こんな感じだな、とあてどもない事をつらつらと考えながら、空を見上げた。





そのまま、どの位そうしていたのだろうか。




「今日は満天の星空だな、見事だ」
「うわ、真田‥」
いきなり背後から声を掛けられ慌てて振り向くと、風呂から帰ってきたらしい部屋主も、ベランダに出てきていた。
「‥‥何だその声は、心外だぞ」
「すまん、居るの気がつかんかったから、ちょっとびびった」




俺は自分で思っていた以上に、ぼっと空を眺めていたらしい。
いつもなら、何よりも先に気がつく、真田の気配すら気がつかないとは、一生の不覚だ。




「余程無心に眺めていたようだな」




そんな台詞を口にしながら優しい顔をして、こちらを見つめる真田に、トクンと微かに跳ね上がる心臓。
いつもこうだ。真田を前にすると悪魔をも騙せる詐欺師の顔は鳴りを潜めて、
自分自身さえ誤魔化せないほど、嘘を取り繕うのが下手な「仁王雅治」が出てくる。





そんな、俺を知っているのか知らないのか、俺の横に立った真田も簡単の声を上げながら夢中になって星空を眺めていた。





一番きらきら綺麗なのは真田なのに。




おまえ自身がきらきら光るお星様なのに。





そう思った瞬間、無意識に俺の口から言葉が溢れ出た。








「なぁ、真田。小さい頃欲しくて欲しくてしょうがないもんて何かあった?」







それはただの好奇心。





まだ何も知らなかった子どもの頃に、欲しくて欲しくてしょうがなかった、夜空に光るいっとう綺麗な星みたいなコイツは
俺が真田が欲しくて堪らないのと同じ様に欲しくてしょうがない物なんてあったのだろうか。





真田を始めて見た時から、ずっと星みたいだと思ってた。





見る者を惹きつけて止まない、満天の星空の中で、ひときわ大きな光を放つ星。






欲しくて、欲しくて、懸命に手を伸ばして、それでも手にすることの敵わなかった優しい光。






「何だいきなり?」
怪訝そうな顔で、真田がこちらを見る。
「んー大した事や無いぜよ。ガキの頃にお星様欲しいーって泣き喚いて親に叱られたことがあっての‥‥」





そんな前置きをして真田に語ったのは今でもはっきりと覚えている幼い日の記憶。





子どもの頃、夜空に光る星が欲しくて欲しくて、木の上に上ったり、屋根の上に上ったり、
虫取り網を持ってうろついた挙句迷子になったり。
親やら姉貴やらに、お星さんは遠くにあるから俺らには取れんって説教されて、
どうしても納得いかなくて、泣いて泣いて泣き叫んだあの日。





お前には無理だと、否定されて悲しくて寂しくてしょうがなかった幼い日の思い出。





本当に欲しいものは手に入らないと悟ったあの日。






「今思えばアホやなーと思うんじゃけどな」


ただ静かにこちらの話を聞いている、真田を横目で見ながら、幼い日の自分を笑う振りをして、
あの頃と何一つ変わっていない今の自分を笑う。





俺は今だってあの頃のまんまだ。






あの綺麗なものを自分のものにしたいと泣き喚いた、あの日のまま何一つ変わっちゃいない。
むしろ、諦めが良くなった分だけあの頃よりどうしようもなくなっているのではないだろうか。





「真田。今俺があのお星様が欲しい言うて、喚いたらどうする?」




真田は馬鹿なことを言うなと、厳しく撥ね付けるだろうなと考えながら、
それでも真田なら優しく受け止めてくれるのではないだろうかと微かな望みにすがる。





だって、本当に欲しいのは夜空に光るお星様じゃなくて、コートの上できらきら光ってる真田だから。






「なぁ真‥‥」
「何ていう顔をしているんだ」
俺の言葉を遮って、真田が優しく苦笑しながらフワリと俺を抱きしめた。
風呂上りのせいか真田からは微かに石鹸の香りがする。
それが心地よい体温と相まって、俺の不安にざわめく心をを落ち着かせた。




「真田‥‥?」
恐る恐る顔を上げると、真田は慈しむ様な目で俺を見ていて、
その静かな眼差しに反比例する様にトクン、トクンと俺の心臓の音がまた早くなっていく。


「そんな顔をする必要は無い。一緒に探すに決まっているだろう?」


何だろう今凄く嬉しい言葉が聞こえてきたような気がするのだけど、俺の聞き間違いじゃないだろうか。


「何を?」


「星だ。お前が欲しいのならば見つかるまで、一緒に探してやる」



俺がよほど頼りない顔をしていたのか、真田がゆっくりと優しく言い含めるように語り掛かける。
どこまでも柔らかい声が降って来る度に俺の体温は少しづつ上がっていく。
すでに赤くなっているであろう顔を見られるのが恥ずかしくて、一旦は上げた顔を再び真田の胸に埋めると、
上から柔らかい微笑が落とされた。





「見つからんかったら、どうするの?」




どうしてこいつは




「言っただろう、見つかるまで一緒に探してやると」




こんなにも優しいのだろう。




「じゃあ見つかったら?」





もしかすると自惚れでもなんでも無く





「お前と一緒に探したものだ。お前と一緒にずっと大事にするのが道理だろう」





俺はもっと真田がくれる好きの気持ちを信じてもいいのではないだろうか。




「そうなん?」
「そうだ」




真田の優しい声と体温が、心の底から嬉しくて、もっともっと体全体で感じたくてそっと真田に手を伸ばす。
穏やかな風を装いながら、俺のと変わらない位、早い真田の心臓の鼓動が嬉しくてちょっと泣きたくなった。





ずっとずっと手を伸ばし続けていたきらきら星は、今は俺の腕の中。
1,001hit記念に真紅さんからリクエストを頂いたものです。
自分には無いものを持つ真田に憧れる仁王とかたまには甲斐性見せようよ真田とか
先日チャットでお話させていただいた事をしっかり混ぜようと努力はしたのですが‥‥!!
リテイクも苦情もいつでも受け付けているので、これはリクエストしたものと違うわってな場合は、
また御連絡よろしくお願いします。
どうも、ありがとうございました。
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