「柳生パパのわからずや!!柳生パパなんか嫌いじゃ!!」

「仁王くーーーーーん」


神奈川県某所に響く二つの雄たけび。








Can You Celebrate?








始まりは真田弦一郎のこの一言だった。



「お義父さん、仁王を俺に下さい」


「あげません。そもそも君にお義父さんなどと呼ばれる筋合いが無い」


頭を下げる真田を一瞥すると、柳生は冷たい声で言い放った。
口調こそ丁寧だが、そこにはうちの仁王君を貴方のような甲斐性なしの元に嫁がせるだなんて
そんな事が出来る訳ねぇだろうがあぁ!!この、ラストサムライが!!てめぇの面鏡で見て出直せやコラ
というオーラが漂っていた。


「お願いします。息子さんは僕が必ず幸せにしますから」
「柳生パパお願いします。俺は真田と生きていきたいんじゃ!!」

そんな柳生にもめげずに頭を下げ続ける真田。

本当にもう、真田はいつでも真っ直ぐで男前過ぎるのぅ、更に惚れてしまいそうじゃ。
これ以上真田にめろめろになったら俺どうしたら良いんじゃろう?
そんな真田を見た仁王は横で感動しながら、真田に続いて頭を下げた。
柳生と同じく妄想駄々漏れなのは、さすが親子としか言いようが無いだろう。


「駄目です。いいですか、仁王君。こんな、生まれてくる時代を間違えたとしか言いようの無いほど思考が古臭くて
顔も老けてる男なんかと結婚したら貴方が苦労するんですよ。ヘタレですし」

そんないじらしい仁王の行動及び思考回路も柳生には不満だったらしく、涙ながらに猛然と仁王の説得工作に掛かった。
後日、真田を罵る柳生の顔は、必要以上にイキイキしていて非常に気持ち悪かったと彼の妻であるジャッカル桑原が青ざめた顔で語っている。

「真田の悪口言わんとって!!確かに真田は現代社会に対応し切れてないところがあるかもしれんけど、
むしろそんなところがかっこいい現代に生きるサムライなんよ!!俺を真田以上に幸せにしてくれる人はおらん」

「仁王‥‥」

そんな父の心にも気がつかず、仁王はどうにかして真田の良さを柳生にも認めてもらおうと必死に訴えかけた。

そんな仁王を見ながら、真田は薄らと涙を浮かべて、何て俺の仁王は可愛らしいんだろうかと、
何があろうとも俺の手で仁王を幸せにしてみせると改めて決意する。




「汚らわしい目で仁王君を見るんじゃありませんよーー!!」

だが、真田のそんな決意を秘めた目も柳生から見れば、仁王の可憐さにやに下がった男の汚らわしい目としか映らなかったようだ。
真田が普段、赤也がジャッカルをふっ飛ばしている裏拳など、目では無いと言うか確実に越える勢いの拳が真田にクリーンヒットした。




「すげぇ、真田副部長が殴り飛ばされた‥‥」

「それだけ、必死なんだろぃ?柳生パパも」

「柳生‥‥そろそろ、止めてやれよ。真田が死ぬし、仁王が可哀想だろ」





そんな柳生の行動を、呆然と眺めているのは、柳生の妻ジャッカル桑原・長男丸井ブン太・三男切原赤也である。

柳生の勢いに押されて紹介が遅れてしまったが、彼らも仁王の家族として最初からこの場で真田の話を聞いていたのである。




「あなた方はいいのですか!!!?私達の可愛い仁王君が真田君なんかの所に嫁いでしまって。こんな、般若面のところに嫁いだが最後不幸になるに決まっています」


号泣しながら、真田と仁王が一緒になったときのデメリットについて語る柳生。
正直平時ならドン引きだが、今回は結婚の申し込みという特殊な状況も手伝って皆神妙に聞いていた。


「それはまぁ‥‥真田なんかの何処が良いのか‥‥って感じだけどなぁ」

「仁王先輩の趣味って理解不能ですよね」



息子二人が柳生に絆されたのか、ココで真田の味方をしようものなら人知れず殺されると、恐怖したのか、柳生に傾いたような発言をする。

流石にこれでは真田と仁王が可哀想だ。




そう思った、お人よし系ブラジリアンハーフのジャッカルが柳生の勢いと真田への普段の恨みが募って、ぼそぼそと柳生の味方の様な発言を口にする二人の息子を押しのけて、一歩前に出た。






「なぁ、柳生、認めてやったらどうだ。この二人が真剣な事は間違いないし、真田にはテニスもでかい家もあるし食うには困らねぇだろ。
それによ、やっぱり仁王が選んだ人間と、本当に好きな奴と幸せになるのが一番だろ、な」


「ジャッカルママ」

「ジャッカル先輩‥‥」

「ありがとう、ジャッカルママ。俺幸せになる‥‥」

「仁王は必ず俺が幸せにします」

ジャッカルの真に人を思いやる発言と、溢れんばかりの癒しのオーラに
あぁ、そうだよね。好きな人と一緒に居るのが一番幸せなことなんだよね。
ジャッカルママ、ばんざーーーい、ばんざーーーい、ばんざーーーい、
といった雰囲気が辺りを包む。






「馬鹿言わないで下さい!!真田君ですよ!!たるんどる等といって将来的にはD.Vに走るに決まっています。父さんは絶対に許しませんからね。
天使のように可愛らしい私の仁王君が真田君に打たれるなんて‥‥貴方の方がたるんでます、真田君!!」

「真田は優しいから俺を打ったりせんもん」

「お前のほうがたるんどるぞ、柳生!!」

それもまぁ、一瞬で覆される辺りがジャッカルのジャッカルたる所以だが。





「ふぅ、やはりジャッカルでは無理だったか」

「柳―――お前どっから出てくるんだよ!!!」

その瞬間しみじみと語りつつ真田の母である柳が現れた。





天井から。







「ここがお前達のデータをとるには一番良い場所だからな。‥‥っと」

ジャッカルの突っ込みにも、柳は悪びれた様子も無く答え、録音用のテープレコーダー、カメラ、ビデオテープ
何となく直視したくない諸々を体中に装備したまま天井から華麗に舞い降りた。



「蓮二母さん!!いったいどうしてそんなところに‥‥」



柳の行動はいつも天上天下唯我独尊というかマイペースというか理解不能というかそんな感じだ。
しかしまさか人様の家の天井にまで張り付くとは思ってもいなかった真田は恐る恐る柳に奇行の理由を尋ねてみる。



「(一応仕方なくというか、面白そうだからな)可愛い息子の為に情報収集をしていたのだ」

「蓮二母さん‥‥何か今台詞の前に()が付きませんでした」

「何を言っている。気のせいの確立100%だ。何か言いたい事があるなら言ってみろ」

「‥‥何もありません」



いぶかしげに思っている息子を開眼で黙らせると、柳は改めて柳生と向き合った。





「そんな訳で、真田弦一郎の母柳蓮二だ。よろしく頼む」
「柳君‥‥丁度良かった。貴方の息子さんもって帰っていただけませんか?」

そんな柳の挨拶は無視でさっさと真田を連れて家へ帰れ。っていうか二度とこのうちの敷居をまたぐな。とでも言いたげに柳生は微笑んだ。

「わかったでは、仁王ともども帰らせてもらう。これで仁王はウチの家のものになったも同然だからな」
「それは‥‥ジャッカル君貴方が渡したのですか!?」
「いや‥‥俺じゃねぇよ。柳どういうことだ?」


柳生がジャッカルの胸倉を掴もうとする勢いで掴みかかるのも分かる。
何故ならば、柳が自信満々にその手に持っていたものは、
柳生家の実印(あらかじめ市区町村長に届け出て、必要の際には印鑑証明書の交付を受けられるようにしてある印章。
一人1個に限られ、慣習上、重要な取引などに用いられる。引用:大辞泉)
がばっちり捺印済みの婚姻届が握られていたからである。



「データを持ってすればこの程度造作も無い事。柳生家の実印が仏壇の一番右の引き出しに仕舞ってある確立100%だ。
さぁ二人ともこれをもって役所へ行け。これで円満解決だ」

「蓮二母さん‥‥俺たちのために」
「ありがとう。柳義母さん‥‥」


真田と仁王の感激した様子に満足して、幸せになれよと笑顔で頷きながら婚姻届(全て記入済)を渡す柳。


「ちょっとおまちなさいよーーーー!!!」

「皆俺幸せになるけんな」

「無論だ。この命に代えてもお前を幸せにする」

「真田‥‥」

「私は絶対に許しませんからね!!仁王君は幼い頃から私と結婚する事が決まっているのです。
5歳のときあんな満面の笑みで言ってくれたじゃないですか‥‥大きくなったらやぎゅーパパの嫁さんになるって‥‥っく」

泣き叫びながら反対の声を高らかに上げる柳生。

げんなりした桑原・切原・丸井。

テニス部が生んだ究極のバカップル真田と仁王。

彼らの雄たけびは神奈川の空に響き渡っていた。














テニス部の奴らはいったい何をやっているんだろう?

どう考えてもテニスとは関係ない昼ドラのような台詞が外まで漏れ聞こえてくる。

そして、それに追い討ちをかけるような幸村の

「声が小さいよ」

「動き悪すぎるよ」

「でもそんなの関係ねぇ」

といった朗らかな声。


善良な一般人である八坂太郎(15)野球部キャプテンはテニス部の部室の前で頭を抱えていた。


彼はただただ同じクラスで、うっかり出席番号が前後してしまっているため後ろの席に座っている幸村が机の上に忘れていった
数学の課題を届けに来ただけである。

そんな親切心で部室まで来てみると何かよく分からない(というか意味を理解したくない)言葉を叫んでる部員達がいた。

部室のドアをちょっとノックして届けて帰ればいいのは分かってはいるが、一般人である彼にこのカオス空間に入り込む勇気は無い。



というか、幸村で色々思い知らされている分恐ろしい。



あぁ、どうしたらいいんだろう。


そういえば昼休みに幸村が
「今日さー真田が将来結婚の承諾を相手方の家に貰いに行く練習するんだー」
とか、電波な事言ってやがったっけ。


こんな部のために、俺たち野球部の今年度予算が減らされたのかとか

平和だなウチの学校ってとか

そんな感想を抱きつつテニス部員たちの阿鼻叫喚をBGMに、八坂がふと後ろを振り向くといつもより高い空が目にしょっぱかった。


頑張れ八坂。負けるな八坂。


とりあえず、その課題は明日朝一で見せてくれ。
というか、この練習用台本書いてたら国語のノート取れなかったから、それもついでによろしく頼む。



監督・演出・脚本・ナレーション:幸村 精市
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