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晴れた青空。 屋上。 君。 そして 君が好き 「仁王、先に着ていたのか。遅くなってすまん」 「ウチ、4限自習やったけぇ早めに終わったんよ」 ホントは嘘。 自習なのは本当だけど、早く終わったんじゃなくて自主的にちょっと早めの昼休憩。 折角の誕生日なのだ。 あんな狭い教室で課題やっているより、心地よく照るお天道さんに癒されながら、のんびり過ごす方が余程有意義だと思う。 「真田は体育じゃろ?ご苦労さんやったねぇ」 あぁ、と前の時間にやったことを反芻しながら近づいてくる真田を見やりつつ、 心の中で、見てたから知ってる。と一言付け加える。 ばれたら説教されるから絶対言わないけど。 「あの程度は造作も無い。移動が少々面倒だがな」 「遠いもんな更衣室。4限やと昼休みじゃからええけど、1限とか授業の間とかは勘弁して欲しいわ。ホント」 「そうだな。慌しくてゆっくり準備する暇もないのは困るな」 「‥‥‥真面目じゃね。お前さん」 俺の目の前に真田が座ったのを合図に、思い思いに昼食の包みを開きつつ、昼休み独特の開放感を満喫する。 まるで人の気配の感じられなかった校内が騒がしくなり、活気づいてきた事を何となく肌で感じつつ、目の前の男をチラリと見て、 そんな日常の中に真田と共に溶け込んでいる事を幸せだと唐突に思った。 「学校は本来勉学や身体の鍛錬をする場だぞ。俺が真面目なのではなくて、お前がふざけすぎなんだ」 「えー何それ酷くない。俺すっげ真面目じゃろ、いつも」 真田が眉間に皺を寄せて苦言と呈せば、俺が茶化して混ぜ返す。 そんな、普通の事が何よりも大切でいとおしい。 ‥‥説教されるのも嬉しいとか俺、真田が好きすぎて、人として駄目な方向に転がってるんやなかろうか。 とはいえ、そんな状態が嫌ではないので救いようが無いのだけれども。 だって、いくら真田でも嫌いだったら此処まで親身に説教しないだろうしな。 他の人間にもこの世話焼きというかお節介なのが発揮されて、 実は後輩人気が高かったり校内で真田が他の人間に構っているのを度々目撃するのが難点だが、 それでも、好きな人がそんな風に何者にも臆せず他人と向き合っている人間なのが実は誇らしかったりするし 柳生に俺に対する態度には、他の人間と比べて柔らかさが垣間見えるとまではっきり言われる程度には 特別扱いされているらしいので今の所は見逃しておいてやろうと思う。 これ以上やるようなら、他の人間なんか見るなって駄々こねるのも面白そうだけど。 昼飯そっちのけでとうとうと説教を始める真田を見ながら、そんなことを考えていると フ、と思わず笑いが零れる。 しまった、また説教のネタが増えると思って真田を見るとやはり聞こえてしまっていたのか、眉間の皺がちょっと増えていた。 小さい声だったから、聞こえないかなとも思っていたのだけど。 でもそれだけ俺のことに集中しているのかと思うとやっぱり嬉しいから、多分じゃなくて絶対、俺は真田が好きすぎてもう病気だ。 「説教されながら笑うとは何事だ。お前も今日からは15歳になるんだぞ。少しは落ち着きと言うものを学べ」 「落ち着いとろうがよ。少なくとも真田よりは突発的事項に対する耐性は高いし」 「そんな想定外の事項では無い。日常の話だ」 「落ち着いてます。少なくともいつも赤也やら幸村やらの行動におろおろしてる人に言われる筋合い無いぜよ」 「屁理屈を言うな。‥‥そうでは無くて、授業をサボるなどの不真面目な行動は慎めと言っているんだ」 「サボってません」 さっきまでサボってた事は忘れた振りをして、間髪いれずに答えを返す。 ばれるとしたら同じクラスのブン太か幸村からだが、ブン太ならば真田に問い詰められたところで上手く話を合わせるだろうし そこは、幸村も同じだろうから心配ない。 流石に誕生日なのだからこの位は、プレゼント代わりにあの二人に頑張って貰おうじゃないか。 真田の話(というか説教)を聞いていても脳内で子守唄に変換で着てしまう俺は、 次の時間、睡眠をむさぼってしまう事が確定なこともあってこのままでも何の不都合も無い。 というかそのほうが嬉しい。 だけど、チャイムが鳴れば教室に帰る真田は、このまま説教を続けさせれば昼飯を食いっぱぐれてしまうだろう。 と言うわけで、双方にとって有意義な昼休みにするために、 嘘を織り交ぜつつさっさと説教を切り上げさせるべく話を収束の方向に持っていく。 何て恋人思いのいいヤツなのだろう、俺。と、少し自画自賛。 「嘘をつくな。仁王、お前は前の時間ずっと屋上にいただろう」 とはいえ、そんな俺の思考には露ほども気が付かず、一刀両断してしまうのが真田の面白いところであるのだが。 「何のことだかさっぱり分からん」 妙に自信がありそうなのは何故なのだろう。 もしやすでにどこかから真田に漏れたとか。 そんな考えを押し殺し心の中で微かに冷や汗をかきながらあくまでも平静を装って答えを返す。 こいつのいたグラウンドからは、遠すぎて人がいることは分かっても誰かまでは判別不能のはずだ。 真田は着替えてからすぐこちらに来たはずなので、俺がサボっていたとか何とかいう話を聞くには、時間が無い。 「また、そうやって誤魔化そうとする」 そう言って真田が脱力して、困ったような笑みを浮かべる。 「居ただろうが。その銀の髪が太陽に反射してえらく眩しかったぞ」 何て言葉と共に。 「あ―――っと‥‥」 「居ただろう?」 誘導尋問なんてのには縁のない人間だしな、真田は。 ということはこの様子だと、やばい、本当にばれている。 そんな風に確信した後そうやって更に念を押されたら認めざるを得ない。 「‥‥え――‥‥目立ってましたか?」 あぁ、ついていない。 フェンス越しにグラウンドを覗いていたのだからその時にでも光が反射したのだろうと結論づけ 暗にサボっていた事を認めつつ、事の真偽を確かめる。 それに、いかなマンモス学校立海とはいえ、流石にこんな髪の色は俺だけだ。 これを持ち出されたら反論出来ない。 そんな質問に首を捻りながら、真田が口を開いた。 「さぁ‥‥蓮二はよく分からないといっていたが‥‥」 ん?何か話が少しおかしいような。 「でも、俺がすぐに気がついたくらいだから目立っていたんじゃないのか?」 あれ、もしかしてこれは 「そんなに分かりやすかったん?」 「うむ、授業が始まったばかり位だからな、気が付いたのが。 そう言えば蓮二にのろけるのも大概にしろとかわけの分からない事を言われたが どういう意味だろうな?」 多分、俺が真田だけ分かったのと同じ理由だ。そうじゃないと困る。 今の一言で、こんなに嬉しくて泣きそうになんだから、同じじゃないと困る。 「どういう意味もくそもそのまんまじゃろが。あーアホらしなってきた俺もう寝るわ」 真っ赤になってしまった顔を隠すように、真田に背を向け屋上に寝転がる。 天然でこういうことをやるから、真田は本当にたちが悪い。 「こんなところでなると風邪を引くぞ」 「大丈夫。そんなやわには出来て無いし。真田こそ授業行かんとそろそろチャイム鳴るぜ」 早く行ってくれ、この赤い顔を見られたら恥ずかし過ぎる。 心臓うるさいからちょっと黙れ。 「今日はここに居る。折角の誕生日だからな。ゆっくり過ごしても罰は当たらん」 そんな願いもむなしく、そう宣言した真田と共に屋上で昼休憩の終わりを告げるチャイムの音を聞く。 ついでに、どんどん近づいて来ている様な気がするのは気のせいだろうか。 「これが、誕生日プレゼントとか言わんよな」 「それは今日の帰りに飯を驕る事で話は付いただろうが、忘れたのか?」 「忘れてへんよ。何食わせてもらおうか楽しみにしとったし」 「そうだな。放課後までに決めておけよ」 そんな風に言い合いながら、すぐ隣に腰を下ろした真田の掌が俺の頭を撫でる。 それがどこまでも柔らかくて少しくすぐったいから、顔が赤いのも心臓がうるさいのも全部無視して俺はこの幸せに身を任せることにした。 どこまでも青く澄み切った空。 穏やかな時を刻む屋上。 胸が温かくなるような笑顔。 そして 好きの気持ち。 そんなものを今此処で、共有出来ている事が、一番の誕生日プレゼントだといったらどんな顔をするだろうか。 そんなことを考えながら眠りに落ちていった誕生日の午後。 意識が途切れる瞬間、優しいおめでとうの言葉が聞こえた。 |
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