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「おっはーよございます。真田先生」 「おはよう。弦一郎なら居ないぞ。切原さん」 「え‥あ、お‥おはようございます!!柳さん」 神様は時々意地悪だ。 今度あの人と逢う時には、絶対絶対バッチリ可愛く決めて少しは女の子らしいところを見せようと思っていたのに。 こんな汗だくで、ぼさぼさの髪でおしとやかに振舞ったところで ちぐはぐ過ぎて意味が無い。 この不良教師がぁっ! 「はい、おはよう。今日も朝から元気だね。ちなみに今日締め切りの課題は俺が預かって置こう」 弦一郎からの君が提出に来るはずだから預かっておいてくれと頼まれたんだ。 と爽やかに言い放つ柳さんの顔を見て某先輩の最愛の人である、某教師にムクムクと殺意が湧いてきた。 いくらなんでも、この人に頼む事無いじゃないか。 というか、自分が持って来いと言ったのだから、自分が受け取るのが筋というものだろう。 なんて、課題を忘れてた自分を棚に上げて罵ってみる。 色んな意味でナイスタイミング過ぎるのは、 普段から数々のスキンシップ(と言う名の嫌がらせ)を真田先生に仕掛けてきたバツだろうか? でも、過激さでいえば、ブン太先輩とか男子部の幸村部長の方が遥か上を行くのに。 まぁ、あの二人なら、そんなものふっ飛ばして平然としていそうだけど。 「すいません、よろしくお願いします。柳さん」 「はい、確かに」 指長くて綺麗だななんて見惚れながら、 うっかり枕にしてしまっていたせいで表紙がよれよれになってしまったノートを手渡す。 女子力、減点1。 「でも覚えていて貰ってびっくりです。前回あんまり話せなかったから」 「俺の方こそ、以前再開したときには随分そっけなかったからね」 「い‥や‥あれは‥」 前回再開時、緊張のあまり禄に喋れもしなかった俺を揶揄しているのは明白だ。 直前まで話題に出ていた憧れの人が、もう再開する事も敵わないと思っていた人が 扉を開ければそこに居たのだ。 案の定と言うか、何というか俺は挨拶もろくにできず終わったわけで‥ 「まぁ、出会いも出会いだから照れくさかったのは想像できるが、もう少し肩の力を抜いて貰えると助かるな」 あーやっぱり、前回の印象悪かったんだろうな。俺、減点2。 再開できたあの日に戻って全部やり直したい。 「だから、肩の力を抜いてくれ。その調子では俺まで緊張してきてかなわん」 そう言ってしゅんとなった俺の肩を叩く大きな手。そんな何気ない接触に驚いて見上げると 柳さんは優しく苦笑していた。 心臓がバクバク言ってもう止まりそう。 ドキドキしすぎて呼吸も出来ない。 やっぱり俺はこの人が好きなんだなぁ。 「え、えっと努力します」 そんな実感と共に絞り出した声は、随分と情けないものだったけれど。 情けない。俺、更に減点。 「努力するようなものでもないよ。友人だとでも思って仲良くしてくれると嬉しい」 「友人‥」 「そう友人」 俺のそんな態度に、少し戸惑っては居るみたいだけど そう語りかける目の前の人は、初めて逢ったときと変わらず柔らかな雰囲気でこちらを見ている。 「教師の友人と言う事で、緊張してしまうのも最もだが、弦一郎ほど堅物でない事は確かだから、身構えなくて構わないよ」 ん、何て言った? 今の柳さんの発言と俺の思考とに多大なズレがあるような‥‥ もしや、今まで柳さんを意識しすぎてギクシャクしてた俺の態度を 柳さんは教師の友人を目の前にした緊張からだと解釈していたのか。 というか絶対そうだ。 いくら俺でも、人の発言が心からのものかそうでないかくらいは分かる。 仁王先輩で散々鍛えられてるし。 ラッキー。棚から牡丹餅。地獄に仏。 何でもいいや。気を悪くした訳じゃなくてよかった。 ボーナスポイント追加。 もしかしたら、もしかしたら、 とりあえず、友人として接してくれたら嬉しいと言うくらいには好感を持ってくれているとか ‥‥いやいや、それは思考が飛躍しすぎだな。 冷静に振り返ればどう考えても、年長者として接してる感じだし。 つぅか、真田先生が気が付くほどにはあからさま(仁王先輩に聞いただけかも知んないけど だったらしい俺の態度を見て、この反応。 もしかしたら、この人真田先生と類は友を呼んじゃった感じだったりして。 ま、でも、それでもいいや。 目の前の人の言動で一喜一憂したり、 笑顔を見ればキュンとなって 時々無性に会いたくなって、 そんな俺の気持ちは本物だから。 覚悟しておいてくださいね。 実は俺、攻撃は最大の防御ってタイプだから。 ん?何か違うけど、まぁいいか。 とりあえず、こんな再開を演出した不良教師には後で存分に文句を言うことにして、 今このささやかな幸せを味わう事にしよう。 |
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