昨日はバレンタインでした。








バレンタイン翌日早朝。
は、ただの平日なんやね、やっぱり。




昨日は朝っぱらから、跡部にチョコ渡そうなんちゅう奇特な事を考えた女子達が群れを成していて
部室までたどり着くのも困難やったのに
同日同時刻、部室までの道のりは昨日のことが嘘のように静かだ。




俺もまがりなりにもテニス部レギュラーちゅうことで、チョコレートくれる言う子はおったけど
(想いに答えられんのにチョコ貰うのも失礼やから勿論断った)
テニス部レギュラーなんて事を差し引いても跡部のあのモテぶりは異様やと思う。
確かに帝王なんて呼ばれる事もあるくらいだから全てが凄いと言っても良い過ぎではない。
しかしそれでもあの性格の悪さは補えない気がするのだが。
でもそこがまたいい、なんて言う子もおるからなぁ、世界は不思議に満ちている‥‥。
この現象の不思議さ加減は世界7不思議に加えてもいい位ではないだろうか。




嫉妬なんかやないで、俺には日吉が居るし。




誰とも無く言い訳をしつつ、そんなくだらない事を考えながら歩いていくと学校の敷地内に建っているにしては
豪華すぎるほど豪華な建物にたどり着く。


そうこれが、我が氷帝学園中等部男子テニス部レギュラー専用部室だ。
(ちなみに女子部のレギュラー専用部室は、レディーファーストの精神旺盛な監督と跡部が
もの凄く力を入れたのでさらに豪華な造りになっている)



相変わらず、独特の威圧感がある建物やな、なんて思いながら部室のドアを開けると、
いつもは誰もいないはずの部室に珍しい先客がいた。



「岳っくんおはようさん」










「おーっす、侑士。どうしたんだよ?昨日はバレンタインデーだったのにテンション普通だぜ?」









「それどういう意味?」

のっけから、失礼な挨拶をかましてくれたのは、同じく氷帝テニス部レギュラーでダブルスの相方でもある向日岳人。
珍しいな、いつもは遅刻ぎりぎりに来るのにこんなに朝早いなんて。
 

「昨日はあれだろ?絶望に彩られた暗黒のがっかりDAYだっただろ?それなのにテンション普通なんておかしいじゃねぇか」


まったくおかしくない。というか、愛する恋人同士の記念日バレンタインが絶望に彩られた‥てなんて相方がいのない失礼な。

あれか、その発言はつまりそういうことなのか‥また、なのか。
わざわざ、珍しく早起きしてまで‥?





「うん、やからそれは‥‥?」






「しつけーな、昨日日吉に振られたのに何でそんなに元気なんだよ?」







ほらなーーーー!!岳っくんお前またそないなことーーーーー!!
流石に氷帝の風船爆弾なんて物騒な二つ名もってるだけのことはある。
ストレートすぎる剛速球は俺の心に今回もバッチリ穴を開けたで‥



岳人がこういうことを言い出すのは、今に始まったことではない。というか今回で6回目だ。
全く今回は誰が健気に頑張る純情男子の繊細な心を傷つけるような根も葉もない噂をながしとるんやろか?

宍戸か跡部かそれとも大穴でジローか‥?






「振られてへん。アレは照れとるだけや。氷帝の天才忍足侑士の辞書に日吉に振られるという言葉は無い」



とりあえず、誤解されたままでは敵わないというか、
岳人の口から学園中に広まって(無駄に交友関係が広いので一瞬で本当に広まる)本当に終わりにされなかねないので
目一杯否定をしておく事にする。





他の奴らはどう思われようと関係ないが、日吉の耳に入って変な風に誤解されたらどう責任とってくれるんや、ホンマ。






「侑士のには無くても、日吉の辞書にはでかでか書いてあるだろ」


「何言ってんのかさっぱりやわ。そんな文字あるわけ無いやん」


「やー思い込みもそこまでくる清々しいな。ほんとマジウゼー」


くそう、何て口の減らない男だろう。
思ったことを何でも口にするその姿勢には何時も漢を感じているが今回ばかりは流石に言いすぎ‥‥





というか、岳っくん目笑ってへんけど‥まさか‥





「‥‥岳っくん今の8割方本気やろ」

「馬鹿野郎侑士、俺を誰だと思ってるんだよ!!」

「岳っくん‥‥」







「俺はいつでも本気だぜ。そんな8割なんて中途半端な気持ちじゃ話さ無ぇ」






「なお凹むっちゅーねん!!」


ホンマにこうゆう奴やった。
何でこう人を絶望のどん底へ突き落とすのが上手いんだろう。



「大体昨日は‥‥」

「あ、ジローおっはよー」

「人の話を聞け!!」





くそぅ、あの自由人め。






人が昨日の顛末を話そうとした途端、部室に入ってきたジローの元へ駆け寄っていってしまった。

もう、絶対教えてなんかやるものか、だいたいよくよく考えたら勿体無いし。


岳人の態度に少々憤りながら結局食べる事が出来ずに、未だに自室の机の上に置きっぱなしの小さなチョコを思い浮かべる。

  



大方の予想を裏切って悪いが、貰えたのだ。






日吉が顔を真っ赤にしながら、投げつけるように渡してきたそれは小さな小さなものだったけど






それでも、嬉しかった。
  





掌で簡単に包めてしまう、そのチョコは大きさや金額やそんなちっぽけなものでは測れないほど大きな価値があるものなのだから。






「おーおはようさん」


昨日の出来事を反芻していると相も変わらず愛想の無い声と共にちょうど脳裏に描いていた人物が部室の入り口に立っていた。


満面の笑みで挨拶を返す俺を見て気まずそうに顔を顰めると、
いつも以上にぶっきらぼうな返事を返してさっさと自分のロッカーに行ってしまう。






ホンマにしょうがないな







と思わず苦笑を漏らしつつ、ホワイトデーは覚悟しておけよとその背中にテレパシーを送っておいた。
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