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今日はホワイトデー前日です。 奴の旅立ちを祝福するがごとく目一杯晴れてるのが超ムカつくんですけど。 そんな、悪態を窓一杯に広がる何処までも広い青空に向かって吐きつつ、俺は搭乗ゲートへと急いでいる。 くそ、無駄に広いな空港は。 本日3月13日は、俺の同級生で同じテニス部で、一応恋人だったりする真田弦一郎がアメリカへとテニス留学へ旅立つ日だ。 向こうは9月が新学期の始まりなので随分早い気がするが、あの勉強熱心なラストサムライは、 早めに現地に入ってテニスのレッスンと平行して英会話の特訓を始めるらしい。 確かに、文法はそこそこいけるが、発音はかなり残念だ、うん。 事前に練習しておかねば日本以上にコミュニケーションに苦労しそう‥いや、するな。 赤也に勉強を教えていた時の真田の日本人丸出しな発音の仕方を思い出して密かに笑う。 確かあの時最終的に真田も幸村にしごかれてたなぁ。 真田‥‥発音悪すぎるよ。つうかそんな発音でこれからのワールドワイドなグローバル社会を行き抜いて行けるのかー!! って叫んでたっけ幸村。 あ、やば俺今顔緩んでたかも。 いかんいかんうっかりニヤニヤしようもんなら、なに言われるか分かったものではない。 意識的に顔を引き締めて歩みを速める。 「あー仁王めーっけ」 「うをっ‥っ‥‥あー痛、幸村か。いつも言うとるが挨拶代わりにボディアタックは物騒すぎると思うぞ」 「そんな細かい事気にしてたら真田になるよ。若者らしく溌剌と受け止めてよ」 「無茶言うのも大概にしんしゃい」 さらっと失礼なことを口にしつつ、相変わらず豪快な事をのたまう元部長様だ。 見た目は細いが、筋肉が満遍なくがっしりと付いた幸村ははっきり言って重い。 しかも硬い。 存在自体が人間兵器そう言っても過言ではないと常々思う。 非常に好戦的だし。 そんな人間が誰彼構わずボディアタックをするのだ。その被害の程も計り知れると云うものだろう。 「まぁまぁ、ほらこれあげるから機嫌直して」 機嫌が良いらしい幸村はそんな苦情もあっさり流して、こちらに綺麗に包装された何かを押し付けてきた。 しっかり箱詰めされているわけでもないので、包装の上から触ってみればその感触でこの中に何が入っているのかが分かってしまう。 幼い頃から常に毎日持ち歩き‥‥いや時々忘れるけど‥どんなにぐしゃぐしゃにされようとも苦楽を共にしてきたもの。 正直‥‥何とコメントして言いか分からない。 「ハンカチ?」 そう中身はタオルハンカチ。しかも空港のお土産店で売られているものだ。 このチープな飛行機がまたこの状況をカオスへと導いているような気がする。 「嫌がらせ?」 たっぷり30秒の沈黙の後、目の前でふんぞり返っている人間にそう問いかけてみた。 どう考えてもこれが必要な人間は俺ではないと思うのだが。 柳生を筆頭に赤也、ブン太、ジャッカル。 真田の旅立ちに際し号泣する人間はもっとたくさんいるだろう。 そんな思いを込めて幸村を見ると、一発殴り倒したい勢いでムカつく晴れ晴れとした笑顔で頷いた。 いや、本当に殴ったら後が怖いからそれは想像の域を出ない願望だけど。 「嫌がらせ!!泣きたかったら泣いてみろみたいな」 「アホか」 想像以上の天晴れな答えぶりに涙が出そうになる。 誰が泣くか。 確かに真田の旅立ちは、寂しくはないといったら嘘にはなるが、考えて考えて応援する事に決めたのだ。 アイツにはテニスがあるように、俺には俺のやりたいことがある。 だから泣かない。 どうせ休みには帰ってくるし、最近やっとメールを使うことを覚えたから連絡だって容易に取ることが出来るんだ。 所詮は子どもの絵空事ではあるけれど、でも信じたい。 「会いたくなったら、会いに行くし」 金だって、なんだってこの詐欺師の敵じゃない。 お互いが逢おうとすれば、きっと大丈夫。 「つーまんない。機嫌悪そうだったから、喧嘩でもしたのかと思って期待したのに」 いつから見てたんだろうこいつ。 「別に何もしてないぜよ」 笑顔で送りだすのも恥ずかしいし、泣きたいほど悲しくはないし、 どんな風に見送ろうかとココ1週間俺がらしくもなく、散々悩んでいるというのに、 楽しそうに出国の準備をする真田がムカついただけで。 ええ、そうです。八つ当たりです。 「ふーん」 そのニヤニヤ笑いを止めろ。全部分かってるんだろうが。 と、喉まで出しかかって飲みこんだ。 幸村は後回しだ。 真田発見。急ごう。 |
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