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「やっほー僕の素敵な仲間達―」 母さんエマージェンシーです。 友人の幸村精市くんが壊れました。 青春RAINY−DAYS 「幸村‥みんな引いてるから、どうした、落ち着け」 「何言ってんだよ、八坂。今日と言う日の素晴らしさを分かち合いたいっていう俺の溢れでる気持ちがわからないの」 分からないって言うか、何て言うか 分かりたくありません。 こいつどうかしたんだろうか?いや前からすでに色々なものに疑惑を抱いていたが それでもここ数日のテンションは以上だ。 とうとう何かがぶちきれたんだろうか? いや、元々からなんかキレてただろ、何てつっこみが聞こえてきそうだが それでも、それでもだ、あの人外とも思える打たれ強さを誇る テニス部の前で以外はそこそこ大人しかったんだ。 いや‥多分。 でもそれでもどこかおかしいのは確かだ。 確かにこんな気分と言われれば、はいそうですかとしか言い様がないのだが それでも酒でも飲んでんじゃないのか?と疑いたくなるほど延々とおかしいくらい高いテンションを維持し続けている。 例えば数学の時間。 テストに出すから、ここの方程式は覚えるように言った先生に対して 「そんなものより僕たちの愛の方程式のほうが大事だと思います」 なんてとんちんかんなこと言ったり‥ (それまでも時々この種の発言をすることはあったが、流石に授業中は大人しかった) 例えば体育の時間。 ランニング中に突然消えたと思ったら、最後の最後でやっと出て来て 「太陽がまぶしかったので、海辺で1人スラダンごっこしてました」 何てしれっと言い出したりするし。 (この件は幸村だから大丈夫なんて言って放置した教師にも責任はあると思うけど) 「と、言うわけでどうなんだ柳」 「さぁ?」 「さぁ?じゃないだろ!?お前んとこの部長様の話だろうが!!」 柳はのらりくらりと文字通り"柳"のように何と言うか会話に手ごたえがないので いけないと思いつつもうっかり大声で突っ込みを入れてしまう。 さりとて、真田は幸村命みたいなとこがあるから相談したところで一括されて終わるだろうし 真面目さでは真田に引けを取らないであろう柳生は問題をややこしくしかねない。 仁王はなんか柳以上につかみ所がないので迂闊な事言えないし、 丸井‥も難しい事は拳で解決派だからなぁ‥ ん?が幸村に殴りかかって勝てるわけないだろうが!! 桑原withその他テニス部の奴らには可哀想でこんな話振れないし‥ で、消去法で柳だが‥あれかなこの選択も失敗かな? まぁ、初会話の話題がこれっていう俺のチョイスも悪いが一応君のとこの部長様の話しだしもっとこう手ごたえをくれ。 だってなんかこの人一切やる気ありませんよ? むしろ、そんな程度で困惑している俺のことが不思議みたいなそんな感じですよ? 何かこう引き結ばれた口から"ハハン"なんて嘲笑が聞こえる気がする‥ それにしても何をメモっているんだろう、さっきから。 筆ペンに和紙って見た目を裏切らなさすぎだろ、おい。 しかも、達筆すぎて読めないし!! あれか、写経でもしてんのか? 「と、八坂が考えている可能性100%」 「俺の半径3km以内に入らないで下さい。このエスパー柳」 何で分かったんだろう? データテニスなんてのが得意らしいから、どうせ幸村辺りから聞いてた俺の情報を元に推察したとかそんな辺りだろうが、 ぴたりと当たりすぎて何これだ。 「なぁ、柳俺の話聞く‥気‥ある?」 イヤ、何となく答えは分かってるよ?分かっているけど聞いてみたいのが人ってもんじゃないですか? それが俺を絶望へと陥れるプレリュードだとしても!! 「ふむ、俺は今イヤホン等の外音を遮断するものを耳に装着しているわけではないから、 文字通り聞くという意味であれば、存分に4日前から今現在に至るまでの お前の幸村に対する困惑及び愚痴、対処法を尋ねる言葉を一言一句聞き漏らしてはいないが?」 「すいません、俺の聞き方が悪かったです。俺の相談に答えてくれる気ありますか?」 「そのような面倒ごとはごめん被る」 ほらねーーーーーー!!!!! また、何で俺がそんなことをしなければならんのだとか言いたそうな声色がまたむかつく。 駄目だ、テニス部駄目だ。 薄々気がついてたけど、相談とかしちゃいけないんだ。 考え無しに突撃した俺の馬鹿。 もしかしたらそのテニス部の中でも一番相談事には向かない人間だったんじゃないか、コイツ‥ もの凄く気がつきたくなかった真実にぶちあたった俺はそれ以上会話する気力がすっかりなくなってしまい そんな感想とともに、とりあえず貴重な時間を割かせてしまった事に対して詫びてふらふらと屋上を降りた。 そのときの俺試合で燃え尽きた矢吹ジョーよりも白かったんじゃないだろうか。 うん、絶対。 気がついたら帰って夕飯を食っていたんだが、部屋に帰ると泥だらけのユニフォームが放置されていたり 今日の課題が鞄に入っていたりしたので特に支障なく残り一日をやり過ごしたのだと思う。 そう思いたい。 「まぁこんなところだろうな」 柳は、ふらふらと屋上から降りていく八坂の背中を見ながらこの後の行動を少しシュミレーションしてみる。 その表情は、いかにもつまらなさそうで柳蓮二がいろんな意味で八坂太郎という人間に対して興味がなかったかを如実に表していた。 そう今までは、本当に全くなかったのだ。 幸村の友人ということで基本データくらいは仕入れていたものの、考え方、行動どれをとっても普通の域を出ず 幸村以外のテニス部員とはほぼ関係ないことも相まって積極的に近づくこともなかった。 「幸村のテンションが高い理由なんて明白だろうに」 柳は1人呟きながら、八坂太郎という人間についての回想をする。 馬鹿がつくほどお人よしで生真面目で常識的。 八坂太郎のような人間の何が面白いのだろう幸村は。 右を見ても、左を見てもあの様なタイプの人間はいて捨てるほど居そうなものだが。 アレであれば面白いのが同じ部活内に山ほどいるだろうに。 全く幸村執着する理由が分からない。 先日、赤也から八坂が嬉しそうに告白を受けていたときかされた時の幸村の荒れようは尋常ではなかった。 ただあれが、男友達が離れてしまいそうな事に対する寂しさから来るものなのか 他の女に取られてしまう事に対する危惧なのかはわからないけれど。 幸村本人ですら分かっていないだろうから、当然といえば当然だが。 俺が幸村の感情を外からみてどうのこうの推察する事は簡単だが、それは結局のところ"予測"であって"真実"ではないのだし。 他人の気持ちなんて結局は本人の思いが一番の真実なのだから。 この世はまだまだ自分が追及すべき物事に溢れていて本当に面白いな、 そんなことを考えながら柳は密かに微笑む。 この感情が捻じ曲がっている事などすでに承知。 それでも止められないから、全く俺も趣味が悪い。 とりあえずもう少し観察させてもらうとするか。 幸村がお前に対して抱いている感情が ただの行き過ぎた友情なのか いじらしい恋心なのかが分かるまで。 "幸村のテンションが高い理由だって?そんなの簡単さ、お前の中の一番を他の人間に取られていない事が嬉しかったからだろう?" |
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