「手塚、誕生日おめでとう!!」

「おはよう、菊丸?」

午前5:30。手塚家前にて。






呆れても良いよ、それでも君が好きだから







「‥‥おはよッス」

何それ、何だよその仏頂面は。

可愛い恋人が、頑張って早起きしておめでとう言いに来たんだよ。
もっとこう感動とか喜びとかを表す所でしょうがここは。

って言うかこんな乙女チックなことしてる俺が居た堪れないから、1人でローテンションとか止めてもらえないかな。




恥ずかしいんだぞ俺だって。




(家族以外の人間の中で)一番に顔見ておめでとうって言いたかったから、手塚の家まで来ちゃいましたとか。
そんな、今時ドラマでもお目にかかれないような甘いシチュエーション、柄じゃないのなんて自分が一番よく分かってる。
冗談でした、って笑って済ませるには気合入りすぎな感じ漂いまくりだし。


不二にばれたりしたら、一生どころか死んでも爆笑し続けられるんだぞ。
そんなリスク背負ってまで誕生日を祝ってやろうって俺の心意気を無に返すつもりですかこの野郎!!


「こんな朝早くから大丈夫か?‥‥その‥‥眠くないか?」

「‥‥いえ、色々肩透かし過ぎてお目目バッチリです」



そんなお前の反応にだけどな。
ついでに、眠くないかって‥子どもじゃないんだから、と心の中で激しく突っ込む。
確かに言動だけ見れば、俺は手塚と比べて子どもっぽいかもだけどトータルな精神年齢は絶対俺のほうが上だ。



絶対そのはず。




大体大人って言うならこういう場合は何故、朝早くから愛しい恋人が自分の家の目の前に居るのかを察して
こうもっとスムーズに、誕生日おめでとう、ありがとうみたいなやり取りがあって然るべきなんじゃないかと思うのだがどうなんだろう。
去年の俺の誕生日のときは、確かそうだった。

不二が高笑いと共に朝の2時におめでとうの電話かけてきた時も、気持ちは嬉しかったからあえて突っ込まず眠気を堪えつつ普通にありがとうって返したはずだ。


‥‥あーでもその話したとき、手塚機嫌悪かったけど‥。



ってそんな、過去を回想してる場合じゃない!!
この居た堪れない空気を何とかするのが先!!




あぁー、こんな事思いついた昨日の俺を埋めてやりたい。



相手は天然記念物級の鈍感人間、手塚国光だ。

誕生日を誰よりも先に祝いたいなんて、俺の健気な心を理解するはずも無いんだから。



「ならば‥よかった。その、上がって茶でも飲んでいくか?」

「んにゃ、いいよ。今から朝ごはんでしょ?邪魔になるのも悪いし」



親御さんに突っ込まれたら、何でこんな朝早くにここに居るのか説明するのも恥ずかしいし。
手塚は滅多に顔の筋肉を動かさない人間だから、心中はともかく平気な顔して聞いてそうだけど。


と、そこまで考えて改めて自分が結構な恥ずかしい事をしていると思い知らされる。


穴があったら入りたい、マジで。


「しかし‥」

「いいって、今からランニングがてら学校行くから。それじゃ手塚また後でね」
プレゼント期待しとけよ〜
そう言って、俺は手塚に手を振る。

とり合えず、誰よりも早く手塚の顔を見ておめでとうを言うっていう俺の目的は達したのだ。


それだけでも良しとしよう。



本当に俺って手塚には勿体無い位の健気で物分りのいい恋人だなーってそれはちょっと褒めすぎだろ。

そんな1人漫才を心の中で展開しつつ穴に入る代わりに、手塚の前から逃げようと背を向けると、後ろからぐいと腕を引っ張られた。






「菊丸」







力と声と、二つの力に引っ張られるようにして後ろを振り向くと、案の定怖いくらい真剣な顔をした手塚が立っていた。



「その‥‥ありがとう菊丸。すぐに支度をするから一緒に学校へ行かないか?その間家で待ってもらえると助かるのだが‥‥」

そう言って俺を見つめる手塚の瞳は、人にお誘いをかけているにしては剣呑過ぎて逆に笑えてしまう。




誕生日おめでとう。 ありがとう。 家に上がっていかないか?





そんなごく普通のやり取りさえ、さらっとこなす事が出来ない不器用な俺の恋人は眩しいほどに何事にも一生懸命だ。

断られたらどうしようとか、キチンとお礼言って無いせいで俺が怒ってたらどうしようとかそんなこと考えてるんだろうなと
自惚れでもなんでもなく思う。



だって手塚はそんな事を真面目に考え込んでしまう誠実なヤツなのだ。




何しろ俺は、そんな所が可愛くて大好きでしょうが無いのだから。



テニスやってる時は、あんなに何でも出来てスマートでカッコいいのに
コートを出た途端優しくて不器用な手塚国光になる。



その優しさに恋心を抱いちゃったのだから。




「しょうがないな。そん代わり15分で支度する事」



そう返事をしてニシシといたずらっぽく笑うと、手塚の顔が珍しく緩む。





とりあえず、手塚家でお茶でも頂いた後にもう1回おめでとうって言おう。
そう決意した俺は、手塚家の人々になんて言い訳しようかなーなんて考えながら手塚の後に続いて門をくぐった。
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