「柳生!!激誕生日おめでとさーんかく」

「‥‥なんですか、その言葉使いは」

振り向いた先には、目一杯からかう気の漲った良く見知った瞳。

その瞳に静かな一日が終わった事を悟り
誕生日くらい穏やかな1日を望んだっていいのではないかと、信じてもいない神様と彼の保護者をちょっと恨んでため息を一つ零した。


午前7時30分。テニスコートにて。







君の在ることの幸せ







「えー柳生を思いっきり祝うなら、どんなんが良いやろと思って昨日5分くらい考えた末に行き着いた祝いの言葉?」

「嘘おっしゃい。私が確実に嫌がると知っての所業でしょうが」

飄々と答えを返す仁王に対して、柳生が苛立ちも露に睨みつける。
するとそんな仁王は柳生の様子を意に介した様子も無く、それどころかさも面白げに目を細めた。
落ち着こう。
この様な対応の仕方では、彼を反省させるどころかますます喜ばせるだけなのだから。
そんな仁王の様子を見た柳生はそう考えると、自らを落ち着かせる為、密かに深呼吸をして
未だふざけるのを止めようとする気配の感じられない仁王に改めて向き直った。



「うーーん、そうとも言う?」

「そうとしか言いません」

「相変わらず厳しかのー」



その言葉ほど深刻さを感じていないらしい仁王は天真爛漫に柳生に笑いかける。

勿論こんな態度が柳生を一番苛つかせると知っての対応だ。


柳生が仁王のことを知っている程度かそれ以上に仁王は柳生比呂士という男を知り尽くしていた。
それが、柳生の不幸であるといえばそうなのであろう。全く持って油断のならない男である。
もっとも仁王に言わせると、常に自らの想像の斜め上を行く柳生の方が余程性質が悪いという事であるが。



どうしてこう私の周りはこの様に、一癖も二癖もある方ばかりなのでしょうか?



自分の事を棚に上げその癖のある人間の筆頭である仁王に乗せられてはならないと思いつつも、
性格上無視という行動の取れない男は、重い口を開く。


自分が非常にくだらない事に巻き込まれているのを自覚しながら。



「真田君を筆頭に何故か貴方を甘やかす人間がこの部には揃ってますからね。私くらい厳しくなくてどうするんですか」

「柳生‥‥ごめん‥」

「はい?」


くい、と眼鏡を軽く上げながら柳生が生真面目に返答を返す。

すると仁王は急に黙り込んで、そして不意に下を向き、少しの沈黙の後柳生に謝罪の言葉を告げた。

そんな仁王のいきなり過ぎる態度の変化に、何を企んでいるのかという疑問と
自分は何をしたのかという反省が柳生の心を渦巻き始める。
もし、自分が仁王の心を傷つけるようなことを言っていたのなら謝ろう。多分これは彼なりの照れ隠しなんだ。
いつもいつも仁王のこんな手口に騙されている事を忘れ、
そんな考えすら湧き始めたジェントルマン柳生比呂士はとにかく仁王に顔を上げてもらおうと口を開きかけた。
が、その瞬間それを遮る様に仁王が口を開く。






「柳生がそんなに俺のこと好いとったなんてちぃとも気が付かんかった‥‥。ちょっときゅんとしたぜよ」

「誰が何時そんなことを言いました?」




恋する乙女のような顔をした仁王にこんな台詞をぶつけられた瞬間、柳生は自分の体内時計が止まるのをはっきりと感じた。
ただ、真田ならばこの表情で全てを帳消しに出来た可能性もあるが、相手は柳生だ。


体内時計が動き出すのと同時に一瞬でも仁王にほだされ掛けた自分を責め
それ以上に仁王に対して説教魂を燃え上がらせるのが関の山である。


そんな怒りを微かに滲ませた柳生の表情を見て、気をよくしたのか仁王はますます彼の怒りを煽るような言葉を畳み掛けていく。
誕生日だからこそ全力で大事な親友をおちょくりたい‥‥仁王は柳生誕生日の前日イキイキとした目でそう語っていたと証言してくれたのは同じく男子テニス部のJ・K君その人であった。


「さっきの私くらい〜のくだりに凄い愛を感じたぜよ!!」


「意味を歪曲させないでいただきたい。ただ事実を述べたまでです」


「柳生のいけず‥‥。大事な親友のお茶目な冗談に付き合うてくれても良いのに‥‥」


「貴方こそ大事な親友の誕生日くらい大人しくしたらどうなのですか」


「それは出来ん相談ぜよ。これは俺が柳生を全力で祝いたいと思った結果の行動じゃき」


「目を輝かせて言う事ではありません。祝うなら普通に祝えば良いでしょう」


「祝うなら一生の思い出として残るくらいのインパクトのある祝い方をしたいもんじゃろ?」


「どう考えても悪い思い出として記憶に残りそうですが‥‥」


「紳士たるもの細かい事を気にしてはいかんよ」


「少なくとも仁王君に紳士道を説かれる筋合いはございません」



ああ言えばこう言い返し、正論をぶつければ屁理屈で返す。
ある意味割れ鍋に綴じ蓋というか、本当に気が合うんだなこの二人はと思わずにいられないほど軽快なやり取りをする柳生と仁王。
その姿はまるでベテランの漫才コンビの様であり、その中身をよく聞かなくても彼らの会話技術と息の合い加減が群を抜いている事の証明になるだろう。



ちなみに余談であるが、真田弦一郎はこの二人の姿にいつもヤキモキさせられている。
のを見て、自分が愛されている事を確信する仁王雅治(結構なドS)の姿は密かに立海男子テニス部名物だったりする。





どれくらいそうしていただろうか。


このままサボっていては練習が出来ないというか幸村君の鉄拳制裁をくらいかねない。
というか、いつもならば問答無用で真田が怒鳴りに来てもおかしくは無いこの状況で
何故自分たちはまだ言い争っているのだ。
おかしい‥‥!!おかしすぎる!!じっちゃんの名に掛けておかしすぎる!!

そんな考えが柳生の頭の中をもたげてくると同時に、仁王が遠くをちらりと見てニヤリと密かに笑みを浮かべた。


「まぁまぁ、そう怒りなさんな。誕生日プレゼントその2が来たぞ」


「まだ、何かやったんです‥‥」



そんな仁王の笑みに気が付くことなく、
あーぁちくしょうやってらんねーな、やってらんねーよ。俺今日誕生日だぜ?
何でそんな日までこんな訳わかんねー問答かまされてんだ、あぁ?
と紳士らしからぬ心境をあらゆるところから溢れ出させつつ
柳生が振り向くと仁王と柳生の二人をぐるりと取り囲むように、立海テニス部の面々が立っていた。





「「「「「柳生(先輩)、誕生日おめでとう」」」」」




立海テニス部員総出のおめでとうコールと共に、テニスコートに鳴り響くクラッカー。
そう、仁王と柳生が訳の分からない言い争いをしていても咎められなかったのは、
というか、仁王があのような態度に出ていたのも、柳生の注意をテニス部員から逸らし気が付かれない様に、
柳生の誕生日祝いの準備をするためだったのだ。




「‥‥はい?」





「珍しく柳生が呆けてるよ」

「成功だな。仁王!!」

突然の事に呆けている柳生を誰一人としてフォローすることなく、放置したまま自分たちの思い通りに事が運んだのを
口々に喜び合っている立海テニス部員達。

「ふむ、柳生が興奮すると周りが見えなくなる確立87%だったがこうも気が付かれないとは‥‥」


「柳生、誕生日とはいえ気を抜くとは修行が足らん。たるんどるぞ」


「まぁまぁ、いいじゃねぇか。誕生日おめでとう」


「誕生日おめでとうございます。柳生先輩!!」


分析したり、説教したり、嗜めたり、心の赴くままに祝ったり、それぞれやりたいことをやるのに忙しいようだ。




主役を放って。





「皆さん‥‥」


「柳生‥‥誕生日おめで‥‥」


そんな面々に静かに声を掛ける柳生。

改めて、祝おうとする仁王。

何となく声の調子が静かなのは、いきなりのサプライズに感動したからであろうか。
そんな風に考えた立海テニス部部員たちは、暖かい眼差しでダブルス1のやり取りを眺めている。








「神聖なるコートでクラッカーを鳴らしてはしゃぐとはどういうことですか‥‥?」









礼儀にうるさい男、柳生比呂士がすでにぶち切れているなどとは、露ほども思わず。






「え‥ちょ、柳生‥」

「皆さん‥覚悟はよろしいか?」





柳生の眼鏡が剣呑で怪しい光を帯びだした。




柳生比呂士プレゼンツ神奈川秋の陣
〜比呂志の小部屋へようこそ。不透過眼鏡の不透過眼鏡による不透過眼鏡的ジェントルマン講座IN立海〜
が開催されるまで、あと30秒。注: 文字用の領域がありません!
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