「あ、立海の仁王!!」

「なんじゃ、菊丸か」


それは、偶然の邂逅。









いつか運命に変わる偶然









あぁぁ、何でこんな事になったんだ。

誕生日を無事に迎えた週末。

折角部活も休みだからということで、手塚と一緒に出かけることにした午後。

手塚からお家の事情で遅れるって連絡が入ったのが30分前。

同じく真田相手に待ちぼうけを喰らっていた仁王を発見したのが20分前。

それから10分‥‥

こいつと一緒に何故俺はこんな所にいるんだろう。
  





「菊丸、頼むもん決まったか?」

「え‥‥あー俺ケーキセット!!オレンジジュースで」

「そうか。すいません、ケーキセットを一つオレンジジュースで。あとジャーマンブレンド一つお願いします」

しまった、子どもっぽかったかな。
  


仁王が注文するものを聞いてちょっと後悔。
でも、メニューに書かれているものは名前は聞いた事あるけれど、
何がどんな味でどう違うのか全く分からなくて何頼んだら良いかわかんないからな。



そもそもジャーマンブレンドなんて言われたってコーヒーの種類だということがかろうじて分かるくらいなのだ。




本当に同い年なのか謎なくらい、サラッと頼むのが似合いすぎて怖いな、仁王。





「どしたん、菊丸?俺ん顔に何かついとう?」

「い‥‥イヤ、仁王は慣れてるみたいだけどこんな店良く入るのか?」

「んーー柳生がこんなん好きでな、付き合わされとるからの」



あんの似非紳士なんが楽しいんか知らんけど、と言う仁王の顔は言葉の中身に比べると随分と柔らかいもので、
マジで仲いいんだなとしみじみと実感してしまった。






「菊丸は普段はファーストフードとかそんなんばっかか?」

「そだよ、青学の近くにファミレスあるから部活帰りはもっぱらそこかな。ふっわふわのオムライスがおいしんだよん」

「ほーそんなにか」







注文したケーキセットも無事に届き(勿論仁王のジャーマンブレンドも)お互い舌鼓を打ちながら談笑を楽しむ。




お、結構話しやすいかも。




詐欺師なんて呼ばれているだけあって話の持っていき方が非常に巧みだ。

ふむ、性格にはだいぶ癖がありそうだなと夏に試合した時から思っていたけれど
意外とそんなとこも含めて面白い、良い奴なのかもしれない。
これは、嬉しい発見。




そんなことを思いながらテンポ良く会話進む会話を楽しんでいると突然

「仁王も1回食べた方が良いって!!今年―は無いだろうけど、来年になったらまた練習試合とかで青学にも来るだろ?」







この一言で何故か沈黙。





俺おかしなこと言ったかな?
だって立海はエスカレーター式だし、立海でレギュラーやってたのが外部に行くなんてことになったらいくらなんでも噂になってるだろうし。

何も聞かないってことは立海の高等部行ってテニスするってことだよな、絶対。





「さーどうかの?俺がテニスするとは限らんし?」






そう言ってまた例の人を喰ったかのような笑顔。

この嘘かホントか分からない笑顔がまた大人っぽいなぁ。

つかアレかさっきの沈黙と意味深な発言は俺をからかおうとしたとかそんな感じか。

「何言ってんだよー。俺また仁王と試合するの楽しみにしてるのに」

そんな冗談は通じないとばかりに笑い飛ばす。
菊丸様がやられてばかりだと思ったら大間違いだよん。
とそんな意味を込めてちょっと不敵に笑って見せた。


さぁ、どう返してくるんだ。不二で鍛えられてるから俺も舌戦の方も結構強いよ。


そう思って待ち構えてみるが、目の前の仁王が何故か鳩が豆鉄砲食らったような顔をしたまま動かない。


「仁王?」

「‥‥おっまえホンマに面白いの」


心配して呼びかけてみると、壊れた人形みたいに爆笑し始めた。

何これ馬鹿にされてんの?

どういう意図でもってこんな行動をとっているのですか仁王君!!
って柳生みたいな突込みをしてしまった。
そんな風に動揺してしまうくらい俺には唐突な行動だったが、仁王はそんな俺の様子を意に介することなく大笑いしている。


「菊丸、遅くなってすまない。仁王、久しぶりだな」


手塚―今日は一段とお前が光り輝いて見えるよ!!


目の前で爆笑し続ける仁王に成すすべもなく苦悩していると、後ろから俺に呼びかける手塚の声が聞こえてきた。

正直仁王に対してどういうリアクションを取って良いか困っていたので、地獄に仏と言うか神は俺を見捨てていなかったというか




とにかくこの場の空気を変えるチャンスが与えられたわけだ。





「あーうん。仁王と一緒だったから大丈夫―」

そう言うと手塚は安心したように微笑んで俺の目の前に座っている仁王に視線を移した。

「久しぶりじゃのぅ、手塚、ナイスタイミング。キリがええことにそろそろ時間じゃし俺もう行くわ」

手塚が挨拶しようとする前に、仁王は早口でそう言い切ると、まだ爆笑の余韻を引き摺りながら席を立つ。




「もう行くのか?」




あの、わけ分かんない空気が辛かっただけで仁王と話すこと自体は楽しかったから、
手塚も一緒に混ざってご飯でも食べれば良いと思ったんだけど。
そう伝えると、仁王はそろそろ真田が来るはずだからと外をちらりと見る。
それにつられて、外を見ると   



むこうにいるのはもしや‥‥真田?




「付き合ってくれてありがとさん。こんなに笑ったの久しぶりじゃ。今日は会えてよかったわ」


「俺も楽しかった。また一緒にご飯行こうな」


「約束じゃぜ。ファミレスのふわふわオムレツとお前さんとの対戦楽しみにしとるぜよ」


「うん!!絶対負けないかんね」


そう返すと、仁王は今日一番楽しそうな笑顔で笑い返してきた。




その笑顔が子どもみたいで、本当はこの子どもみたいに顔をくしゃくしゃにして笑う仁王が、
仁王の本当に近い表情なのかなと唐突に感じる。

   



「ほほぅ、それは楽しみじゃのぅ。じゃな」

とはいえ、その笑顔もすぐに詐欺師めいた笑みに変わってしまうのが仁王なんだけれども。





ただ、そういって去っていく仁王の細い指に挟まっているものを見逃すわけには行かない。

「え、あ伝票!!」

そう彼の手には、今日二人で飲み食いした分の伝票。
しかも今日は俺がケーキセットで仁王がコーヒーだから俺のが高いんだよね。
この成り行きはもしかしてもしかする確立98%だけど、自分のことは自分でしないと。
そう思って財布を取り出す俺を、仁王が押しとどめる。

「菊丸、今週誕生日じゃろ?プレゼント代わりに驕るけん」

「つかなんで知ってんのさ?」

「参謀に試合前にデータ叩き込まれたからの。」


ハッピーバースデー、そんな言葉と伝票とともに去っていった仁王はやはり胡散臭かったけど‥‥かっこいい。










「なんと言うか‥相変わらず読めない奴だな」

「ま、そこが面白いんでしょ」


そう返しながら、俺は次に会う時は真田とか手塚とか混ざっても面白いかもなぁなんて
未来予想図を頭の中に描いていた。
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