「日吉君、日吉君。誕生日おめでとう!!」

「あ‥‥あぁ」

思い切り引きつった俺の声に覆いかぶさるようにして舞う大量の紙ふぶき。



何がしたいんだろう、この先輩は。
転校という二文字が本気で頭をよぎる、そんな今日この頃です。










幸福はここにあるのだと知る










「日吉〜どないしたん?そんな顔して‥‥まさか、俺の溢れんばかりの愛に感激して‥‥」

「それはありません」



ここだけは、是が非でも否定しておかないと、後で大変な事になる。
これが誕生日プレゼントと言わんばかりの勢いでもの凄い脱力感を味合わせてくれたどこかの眼鏡は
日吉のいけず、だの、そんなとこも好きだの何だの戯言をほざいている。



「そんな切って捨てること無いやん。こう、たまには実は俺も‥‥みたいなときめきメモリアルを俺と創ろうやないか!!」

「そろそろ、黙らないとぶっとばしますよ。というか今まであえて無視してましたけど、そのかっこなんですか?」

「夢見る男子の憧れセーラー服や。こう男なら1度は憧れるやろ。セーラー服に身を包んだ初々しい美少女に愛の告白」

「そんなのアンタだけかと思いますが」





真顔で言い切った眼鏡に、どう突っ込めば良いのか本気で悩む。



確かに普通の男なら嬉しいシチュエーションかもしれないが







何処にセーラー服に身を包んだ野郎に誕生日を祝われて嬉しい男がいるだろうか。








まったくどこから用意してきたんだか。このセーラー服。
俺の記憶が間違っていなければ、ウチの学校はブレザーだったと思うのだが。
本当にご苦労様だと心底思う。


ただ当たり前だが俺にはセーラー服を着た人間を見て喜ぶような趣味は無い。



それが男ならなお更だ。



というか、普通にゴツくて正視に堪えない。







「えー可愛くない、岳っくんには大評判やったんやけど」


スカートを摘み上げるな、そして回るな。



向日さんはアンタの女装が綺麗だったからじゃなく、気持ち悪すぎて面白かったんだよ。
何でも面白がるあの人のことだ。
ふざけてこんな格好をした眼鏡を、更に囃し立てて調子付かせたのだろう。
まったく、良い迷惑だ。



俺がこんな風に不快になる事も見越してけしかけたに違いないのだから。




(向日さんはこういうことには良く頭が回る人だ、他はさっぱりなのに)





「まったく可愛くありません。早く教室に行ったほうが良いんじゃないですか?もう昼休み終わりますよ」

「ノープロブレムや!!俺の分は岳っくんに日吉の分は樺地に代返頼んできたから」

「そうですか。それでは楽しい昼休憩を続けて下さい。失礼します」





この人は本格的に馬鹿だと思いながら俺は教室に戻るべくきびすを返した。





なんでよりによってどう考えてもばれそうな人間に頼むのだろう。

忍足さんと向日さん、俺と樺地では声質が違いすぎるにも程がある。
絶対にばれるに決まっているではないか。


この人は頭が良いのか悪いのか、時々判断に非常に困る事をする。まったく迷惑な話だ。
しかも、俺まで巻き込むのだから、迷惑さ加減も倍である。




少なくとも俺はこんな馬鹿馬鹿しいことで評価を下げるのは避けたい、ごくごく真っ当な学生生活を送りたい普通の中学生だ。



しかも次は監督の音楽の時間だし。







「えーあ、ちょっ‥‥日吉」





「祝うんなら普通に祝ってくださいよ。それなら祝われてあげない事も無いですから」





自信満々に馬鹿なことを言い出した眼鏡を放って教室の戻るべくきびすを返す。
すると、慌てたような声を出して、眼鏡が俺を引きとめようと追いかけてきた。








(それが冗談か本気かが分かるくらいには、この人の事を理解できるようになったのは何時からだったか)








「じゃあ帰りにマクドで驕るってのはどうや」


「それくらいなら許容範囲ですね」


「よっしゃ、じゃあ今日部活終わったら飯食べいこな」



のんびりと階段を降りていると、上から慌てたような足音が響いてくる。
そして、段々と近づいてくる、声。



「しょうがないから、付き合ってあげますよ」







「絶対、約束な」





笑顔が並ぶ。





「でも、その格好は絶対止めてくださいね」







軽く息を吸って顔を上げて









「忍足さん」







彼の名前を呼ぶ。







顔を上げた先にいたのは、満面の笑みを浮かべて浮かれている
似合いもしない女装をして滑稽なピエロと化した眼鏡だった。








(夢であって欲しかったけど、いつも通りの現実だった)












そんな当たり前の延長線上にある今日の日が、いつか大切な想い出になるのではないか
そんならしくない想像をめぐらせながら、次の授業に出席すべく廊下を歩く速度を上げた。注: 文字用の領域がありません!
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