「日吉、デート行こう」
「行きません」
二人の少年のいつもの関係。




星に願いを(1)





「相変わらず連れへんなぁ。たまにはええ返事くれても罰あたらんのやない?」
忍足はつまらなそうに、ぼやく。


それが彼の神経をどれだけ逆なでするかを分かっていながら。


日吉の拗ねたような顔も可愛いと本気で思っているから、


というよりはこういう風にしかコミュニケーションを図れないといったほうが正しいだろう。
本気で彼にぶつかっていって、受け入れられないよりは、
今のつかず離れずのポジションで日吉のそばにいたほうがいいと、彼の心は無意識のうちにそんな決断を下してしまっている。



「罰は当たらないかもしれませんが、俺には心身共に罰を喰らうかそれ以上のダメージがかかります」
そんな忍足の不器用な性格を知ってか知らずか、日吉はクールにそう言い切ってしまうとコートへと歩みを進めた。




「侑士―まーた玉砕してんのかよ」
「玉砕とは失礼やね。まだ、砕け散ってはないわ」
「砕け散ってなくても、拒絶されてたら同じ事だろ!!」
特になにも気構えずに、忍足に話しかけてきたのは、ダブルスパートナーの岳人だ。
つまらない漫才のような会話を繰り広げながら、視線の端ではコートでアップをしている日吉を追っていた。





相変わらず、真っ直ぐで綺麗だと思う。




そしてそんな風に思ってしまう自分の心に軽く絶望を感じる。
いくら焦がれても彼が自分に振り向く事はないのだから、と。




「岳っくん酷いわ。俺の繊細な心はぼろぼろや」
「何処が繊細だよ!!繊細な奴は勝手に人のタオル使ったりしねーよ!!」
「ちょーっと持ってくるの忘れとったからかりただけやん。
あとで洗濯した後、愛する岳っくんの為にリボンをかけて返すつもりやったんやで、手作りクッキーつきで」
「キモイからそれだけはやめろ!!つーか反省しろよ、侑士!!」




「もー二人とも、つまらない漫才は終わり。早くしないと監督が来ちゃうよ」





「うわーっ!!」
「うぉっ!!」
「何二人とも驚いてるの?」
そんな二人の前になかなかに失礼なことを言いながら現れたのは、滝だ。
何を考えているのかを読み取らせない(跡部のインサイトでも厳しいともっぱらの噂だ)
優雅な笑みを浮かべながら気がつけばすぐ横に立っていた。





「‥気配消して近づくの止めろよ滝」
岳人がげんなりしたように呟く。顔にこそ出さないものの忍足も同意見だ。
(毒なんかなさそうに見えて、意外と跡部以上に厄介なんよなぁ)
心の中でそんな風に呟きながら、軽くため息。
「失礼だね、漫才に夢中になって気がつかなかったのは二人だろ。
僕は普通に歩いてきたよ」
「「((お前の普通は普通じゃない))」」
そう嘯く滝に二人で突っ込む。
黙っていても同じ台詞が同時に浮かんでくるのは、流石氷帝ダブルスといったところだろうか。




「もういいや、それより監督もう来るんだろ、コート行こうぜ。
侑士タオルは洗濯だけして明日返せ」
この話題は引っ張っても堂々巡りだと感じたのか岳人がすっぱり話題を打ち切ってコートへ向かう。
「了解」
忍足は背はちっこいのに男前だと岳人に聞かれたら殺されそうな事を考えつつ、その後ろについてコートへ向かおうとした。




「忍足」
そんな忍足に向かって滝が声を掛ける。
「今日って七夕だよね」
「あぁせやな。俺んちの近所も笹飾っとったわ」





確かにそんなイベント見逃す手はないが、一緒に過ごしたい相手に断られた今、
今日が何の日だろうと忍足にとっては意味を成さない。







「案外さ、星に願いでも掛けてみれば、願いも叶うかもよ」
「は?」
滝が謎かけのような意味の分からないことを言い出すのは日常茶飯事だが、
今日のはいつもに増して意味不明だ。


忍足は決して頭の回転が悪いほうではないが、何処をどうとっても何に対して言われているのかはわからない。



テニスが上手くなりたければ、願う暇があれば練習したほうが言いに決まっている。




勉強にしても同様だ。








彼についてのことは‥‥星に願うだけではどうしようもない。
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