「そんなわけで、はい」
そんな思案顔の忍足をクスリと笑い、滝は短冊を差し出した。
「うん、せやから短冊渡されても‥」
「日吉―!!!」
お前の言っとることが意味不明なんやけど。と続く忍足の言葉をさえぎって
滝が大声で日吉を呼んだ。
「ちょっと滝君。俺、頭がついていってへんのやけど説明してくれる?」
「やだ」
そんな滝に向かって説明を請おうと呼びかけるも、鮮やかに無視。
二の句が告げないといった様子で立ちすくむ忍足と、
そんな忍足をニコニコと眺める滝の元へ日吉が近づいてきた。




星に願いを(2)





「何か用ですか?」


ちょっとおかしな先輩二人の様子が気には掛かるものの、関わればロクなことにならないのも学習している。
日吉は疑問を押し殺して用件を問うた。



「うん、今日町内で夏祭りがあるでしょう?」
「そうですね」




7月7日の本日、氷帝学園のある町内で夏祭りが開かれることになっており、氷帝学園の有志(というか生徒会)も毎年協力をしている。
なので、いつもは休むことなくコートで練習をしている跡部も今日は生徒会長として祭りの運営に携わっていて今日は休みだ。
そんな例外を除けば練習・練習のテニス部員は部活が終わる頃には疲れきっていて、




参加する体力がないorサボって参加した事がばれるともの凄いペナルティを喰らう為
参加する者の方が少数である。



それがどうかしたのか、という気持ちを隠そうともせず胡散臭げに忍足と日吉は滝を見つめる。
そんな二人の様子を微笑ましいな等と思いながら滝が言葉を紡いだ。



「うん、榊監督がね、二人に手伝ってきてもらいたいってさ」




「はい?」
「何でですか?」





もっと聞きたいことがあるはずなのだが、予想外の言葉に二人は驚くしかない。
毎年生徒会が協力しているのは知っているが、
テニス部から手伝いに言ったという話は聞いたことがないからだ。





そんな二人の様子を気にした風もなく、滝は話を続ける。
「なんか、向こうの方でけが人出たらしくてね。
会場設営する人数が足りなくなったらしくて生徒会経由でウチに協力要請が来たみたいなんだよ。ほら、跡部生徒会長だし」


確かに滝の言っていることは理屈としては分からなくもない。
けが人が出てしまい、人数が足りなくなったので急遽跡部が自らが部長を務めるテニス部の人間ならなにかと融通もきくと考えて、
テニス部が練習をしているから人を出すとかなんとか言ったのだろう。
そこまでは納得できる。




しかし大きな疑問が一つ残っている。





「なんで俺たちなんや?」
そら日吉と一緒なんて嬉しいけども。という本音は隠して忍足は尋ねる。
レギュラーから非レギュラー部員に至るまでのヒエラルキーがしっかり確立された部だ。
レギュラーがこのような雑用(といっては聞こえが悪いが)に借り出される事は異例中の異例といっていいだろう。
「そうですよ。いったいどういう基準で選んだんですか?」





そんな二人に滝はその疑問ももっともだという風に頷くと
悠然と言ってのけた。





「くじ」





「「はい?」」
あまりにも予想外だった為、聴き間違いかと思い忍足と日吉は滝に問い直した。




「だから、監督がレギュラーの中からくじで選んだの」
どうやら利き間違いではないようだ。その証拠に、
地域の方に直接関わるんだから下手な人間を出すと氷帝の名誉に関わるとか何とか言いながらくじで選んでたよ。
とニコニコと話す滝はその内容に特に疑問は抱いていない様だ。




「「くじ‥」」




なんだか、納得できるような出来ないような気持ちを抱えながら、
日吉と忍足は互いに顔を見合わせた。


「うん、だから二人はこのまま荷物もってお祭りの会場へ。
早く行かないと監督と跡部にどやされるよ」
「「はぁ」」
分かったような分からないような、納得したようなしないようなそんな相反した気持ちを抱えて二人は歩き出した。
というか完璧に納得したわけでもないのだが、監督ならやりかねないと思うのと、
滝の雰囲気に飲まれて反論する気力もうせたというのが正しい。




「日吉頑張ろうな」
「はい」
「まぁまぁ、二人とも。早く終わったらお祭り見物してもいいって監督も言ってたし楽しんで来たらいいじゃないか」
「せやね」
「そうですね」
何を言っているのやら、あの跡部が待ち構えているのだ。
祭りの終了までこき使うに決まってる。
そんな反論をぐっと飲み込んで、二人は言葉少なげに返答した。




「大丈夫、跡部の事は僕に任せて。忍足さっき短冊あげたでしょ?
仕事終わったら、デートついでにそれで氷帝の優勝祈願でもしてきてよ」
「デートってなんですか!?」
「自分跡部に何するつもりなん!?」
さっきまでの哀愁漂う雰囲気は何処へやら、滝の言葉に忍足と日吉は面白いように反応している。




そんな二人に向かって、滝が爆弾を投下した。





「さぁ、全てはお星様のみぞ知るってね。
日吉も実は牽牛が織姫の心を掴むのに必死なのを気が付いてない訳じゃないんでしょ?
今日ぐらいそんな一生懸命な牽牛に素直にご褒美上げてもいいと思うんだけど」




「滝さんそれどういう意味ですか!?」
図星を付かれたからだろうか。
滝のいきなりの問いかけに日吉が顔を真っ赤にしながら
反論をしようと試みてるものの彼にしては珍しく二の句が継げないでいる。
(日吉が見たこともないくらい真っ赤なんやけど)




そんな日吉の様子を見ながら、
実は自分の本気の度合いが日吉にばれていたとか、それでも完璧に拒絶されなかったのはもしかして‥とか
顔が真っ赤なのは実は脈ありだからなのかとか、そんなことを考えつつ、自分の顔が真っ赤なのも気がつかず、
我を忘れて忍足は日吉を凝視している。





滝は、しょうがないなぁ、この二人は。と内心呟くと



「どういうもなにもそのまんま。早く素直にならないと一年に一回どころか一生会えなくなっちゃうよ」





そう言って意味ありげな笑みを浮かべ自分の投下した爆弾により
パニックに陥っている二人を放ってコートを目指して歩き始めた。




後に残るのは、突然の爆弾投下に成すすべもない二人。



いつもの関係にほんの少し変化の兆し。






二人が無事ハッピーエンドを迎えられたかは、お星様のみぞ知るところ。
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