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夏の終わり――――――――――― summer rain(前編) 全国大会決勝シングルス3手塚対真田。 二人とも死力の限りを尽くした戦いは、見ている最中に本当に決着が着くのかなんて、ちょっと思ったりした。 俺たちの誰もが手塚の勝利を信じて疑わなかったけど 結果は7−5で立海の真田の勝ち。 一番悔しいはずの人間は、そんなそぶりは一切見せずに痛めた腕の応急処置をしていた。 「面白くなさそうだね、英二」 「不二‥‥」 面白くない。面白いはずがないのだ。 そしてそんな事を言っている不二も面白くないのか、 不二が少しイライラとした感じで、こちらに近寄ってきた。 「うん、面白くないよ」 不二に隠しても無駄なことだと分かっているから、俺は正直に心境を告白する。 「不二もでしょ?」 という突っ込みは勿論忘れずに。 「イヤだなぁ、英二に心を読まれるなんて、僕も終わりだね」 「にゃんだよそれーー!!」 もの凄い嫌味を言われたが、これが不二流の気遣いだというのは分かっているから必要以上には気にしない事にする。 二人とも気分は最悪だが、それでもまだ決勝の最中だ。曲がりなりにもレギュラーなのだから沈み込むわけにはいかない。 「不二、英二、大丈夫かい?」 タカさんが心配そうな顔をして、俺たちのほうに歩いてきた。 心優しいタカさんは、大石とはまた違った意味で面倒見が良くて頼れる存在だ。 「二人ともどうしたの凄い顔して」 「僕そんなにあからさまに不機嫌な顔してる?」 参ったな、と不二がさっきまでの苦い顔を少し崩して苦笑する。 不二はこういう時は、積極的に構われるのを嫌う。それでも、タカさんに対して壁を少し低くして向き合っているのは、 タカさんの人格の成せる技だろう。 「顔って言うか雰囲気がね。折角の決勝楽しまないと損だよ」 「分かってるんだけど、釈然としないというか‥‥。ね、英二」 「‥‥うん」 タカさんがちょっと困った顔でこっちを見る。 そんな顔させたいわけではないのに、何となく上手くいかないなぁと思う。 そんな風に3人で何となく釈然としない空気を共有しているところにちかず手くる一つの影。 「10分位なら、抜けても大丈夫だそうッス」 いきなり近づいてきたと思ったら、そんな言葉をポツリ。 言葉が端的なのは、君の長所であり短所だよ?海堂君。 「海堂、どういうことだい?」 不二も端的過ぎる言葉に意味を理解する事が出来なかったらしく、海堂に意味を問いただす。 「次の試合まで少し時間あるから、それくらいなら平気だろうって大石先輩が菊丸先輩に」 「大石が?」 そう言って、手塚の手当てをしている乾と大石の方を見ると、二人でこっちを見ていたずらっぽく笑った。 「英二―すまないがココだとキチンと手当てするのにちょっと厳しい。すまないが救護のところまで手塚を頼めるか?」 「そうだな、もう少し本格的に手当てをしないと不味いだろう」 大石と乾が変に息が合っているのがちょっとおかしかった。 隣の手塚は無表情だったけど、大石と乾の突然の俺への頼みごとに驚いてるの丸分かりだし。 そんなベンチの様子を笑いを堪えながらちらりと隣を見ると不二とタカさんもちょっと笑ってる。 海堂は相変わらずの無表情だったけど。 「オッケー任せて大石、乾!!バッチリ手塚を復活させてくるから」 そう叫びながら、まだ呆けているような顔をしている手塚の元へと向かう 「そこまで大げさな手当ては必要な‥‥」 この展開に頭がついて行っていないのだろう。 手塚が俺の方を呆気にとられたような顔をして見ている。 「駄目だよー手塚はそう言ってすぐ無理するんだから。ではではしゅっぱーつ、すぐに戻ってくるね」 そんな手塚の様子はとり合えず黙殺する事にして、手塚の腕を取って強引に立たせるとそのまま引っ張って歩かせる。 もしかして、肘に悪いかなーと少し懸念するが、特に何の反応もないので気にせず進む事にした。 「頼んだぞ英二」 「見た目程は酷くはないから、安心していいぞ」 「手塚グダグダ言ってないで、さっさと歩く。しっかり治療が終わるまで戻ってきちゃ駄目だよ」 「気をつけてね。手塚、英二」 「ッス」 それぞれの言葉に送り出されて、俺と手塚はコートを離れる。 ねぇ、手塚気付いてる?皆みんな手塚を心配してる事に。 手塚のテニスが大好きだってことに。 「良―し此処でいいだろ」 「救護は此処とは反対だった様な気がするが」 「いーんだよ此処で。ここは菊丸印の特別救護室だからね」 コートからちょっと離れた、広場。(広場って言うには、少し狭いけど) 前に試合で来たときに見つけて、次に来る時は此処で休憩しよって決めてた。 とりあえず、青学では俺以外知らないであろう、秘密の場所。 さぁ、手塚喧嘩を始めようか? |
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