AM7:00
まだ、薄暗く春だというのに肌寒い。

人っ子一人見当たらないテニス部部室の前に俺は気が付いたら拉致されていた。



「おはようございます。幸村精市です」




(俺は)友人だと思っている幸村精市の手によって。





「‥おはようございます、八坂太郎です」

「ちょっと暗いよ、八坂。だいたい君の事なんか知らない人ばっかりなんだから、自己紹介くらいしときなよ」

「俺達以外誰もいないだろうが」

「馬鹿!!俺達の見えないところに読者っていう神の様な存在がいるんだ!!」

「‥オマ‥幸村‥朝から本気で殴るの無し‥ゴフッ」

「八坂こそ朝からそんなんじゃ今年の夏も甲子園いけないよ!!
俺を甲子園に連れて行ってくれるんじゃないの?たっちゃん!!」

「そんな約束した覚えないわ!!たっちゃんとか鳥肌が立つから止めろ!!
第一中学生だからどのみち甲子園はいくら勝ち続けようが行けないし





‥そもそもこの状況が分からない!!」





うん、本当に分からない。何故俺はこんな所で幸村と共に佇んでいるのだろうか‥。






永久不滅のバカップル






俺の名前は八坂太郎(15)。誕生日は4月13日、血液型はA型。
所属は野球部、ポジションはキャッチャー。一応キャプテン。
体格は平均的な中学生よりはやや大きめかな。
得意教科は社会、体育。苦手なのは数学。成績は中の上といったところか。
この立海大付属中学に通う極々普通の中学生である。


唯一つ、普通でないところといえばこの隣にたたずむ友人の幸村精市くらいだろう。
全国でもトップレベルの我が校のテニス部の部長を努めるだけではなく
成績優秀、眉目秀麗、立てば芍薬座ればぼたんといった具合に全てにおいて
最高なナイス☆ガ‥







「幸村、お前何さっきから壁に向かってぶつぶつ呟いてんだよ?」



怖いから止めてくれ。
壁に向かって笑顔で話す様子ははっきり言って相当気持ち悪い。
しかも何故俺の振りをして語りだす幸村精市!!


こんなのでも、友人になって3年目になるのでそれなりに耐性がついたと自負している。
が、それをやすやすと越えてしまうのがこの男の厄介なところだ。



今も拳を握って俺のサービス精神の足りなさを延々と説いている。




寝ぼけ眼には朝からきついサービスだ。
読者という神へのサービスだか何だか知らないが隣の友人への気遣いを先に学んではくれないだろうか?


「何言ってんのさ。だから、君の事なんか知ったこっちゃない読者様の為に説明してるんだよ。
いきなりここで君がモノローグなんか担当したら、素直な読者様が混乱するでしょうが。
ただでさえ、二次創作でオリキャラなんて微妙な扱いなんだからね!!」


「いや、でもこんなとこまで読む奴いな‥」


「何か言った?」


「いえ、何も」



パンチ2回目です。絶対内蔵やりました。
昨夜、弟とそれなに激しい取っ組み合いのけんかをしましたが、
その際本気で殴り合っているとき(殴った方も殴られた方もダメージを感じるレベル)よりも痛いのはどうなんでしょうか?





衝撃のち握りつぶされるような痛み。





父さん母さんそして弟。先立つ不幸を許してくれ。
特に弟。
プリンぐらいで怒鳴ってすまなかった。



後、加害者(幸村)への報復はお前に頼む。





と、俺が苦痛に耐えつつ、家族への遺言を切々と心の中で読んでいるのも関わらず、
幸村は涼しい顔して明後日の方向を見て相変わらず何事かを呟いている。
分かってるよ、アイツにとっては軽い突っ込みのつもりだろう事くらいは。





お前いつか覚えてろよ、幸村。





「で今日は何だ帰っていいか?朝練あるから」


「駄目だよ、さっき説明したでしょ。今日は所構わずイチャこくウチのアホバカッポーを退治するんだよ。カップルバスターとして!!」





聞いたけどやりたくないから帰りたいんだよ。
俺の楽園(野球部部室)へ。




「さっき断ったじゃねーか。真田と‥‥女子部の仁王だろ‥ヤダよ。真田はともかく仁王には恨まれたくない。
俺はお前と違って平凡で地味な日常を愛する一中学生で居たいんだ」




本当に嫌だ。とてつもなく嫌だ。
幸村が目を輝かせて力説しているのがまた嫌だ。
朝から不景気にもため息まで出てきた。












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